魔法みたいに雨を降らすのも

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 困った。  泣けない。  泣きたいのに、涙が出てこない。  いや、泣くのなんて情けない。  私はもう、ガキじゃあないんだから。 「大丈夫?」  声をかけてきたのは、ガキの頃からずっと一緒にいる幼馴染(こいびと)。   「……何が、だよ」 「だって、すごく泣きそうな顔してるから」  お前のそういうトコ、ほんとにムカつくな。  にらみ返すと、広げられる両手。 「おいで」  誰がンなことすっか。  そんな気持ちとは裏腹に、自然と身体がアイツの方へと行く。  ふわりと香る、嗅ぎ慣れた柔らかい匂い。  それは少し、風と雨の匂いに似ていた。 「つらかったね」  呼び起こされる、辛い記憶。  あれほど目に湧き上がらなかったものが、たった一言でぶわりと湧き上がってきてしまった。 「ゔっ……ゔわぁぁぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ――!!」  泣いた。  本当に、ガキみたいに、情けなく、泣いてしまった。  その間。アイツは何も言わないで、ただ背中と頭をぽんぽんと優しく叩いた。  ―――― 「落ち着いた?」 「……まぁな」 「そう、それは良かった」 「くそっ、泣くつもりなんてなかったのに……」 「まぁまぁ。でもスッキリしたでしょ?」  我ながら情けなく上げてしまった泣き声が豪雨か嵐だとするなら。にこりとしたコイツの微笑みは、まるで雨上がりの虹みたいで。 「……ふん」  少し悔しいから、顔を背けた。  (魔法みたいに雨を降らすのも晴らすのも)  (悔しいけど、お前だけだよ)  
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