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 小学校で夏休みが終わる頃から母親が体調を崩し始めた。無理をしていたのだと二郎にもわかった。正直、二郎は母親が仕事を休んで家にいてくれるのが嬉しかった。だが疲れ切った様子の母親に甘えるような“悪い子”にはなれなかった。動けない母親の代わりに家事をした。料理は元々母親がやっていなかったので覚えなかった。文句ひとつ言わずに母親を支える二郎に母親はいつも言っていた。二郎はいい子だね、お母さん元気になったらまた頑張るから。二郎が“いい子”であることが二郎本人を苦しめ、母親もまた追い詰められていた。  1ヶ月ほどのブランクを経て母親は“同伴”と普段の仕事を再開した。明け方近くに帰宅する母親には二郎に構ってやる体力は残っていなかった。母親がごめんね、と言うと二郎は決まってこう返した。俺は大丈夫だから。  小学校最後の冬休みを終えてしばらく経った頃、二郎はいつものように自分で鍵を開けて帰宅した。コンビニで買った弁当を食べて宿題をした。学校の図書室で借りた本を読んでいると玄関の呼び鈴が鳴った。ドアの前に立っていたのは二郎の知らない男の人だった。
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