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 男は大きなビニール袋を手に下げていた。お母さん、いる?と男は訊いた。いないということがわかっているような口ぶりだった。二郎は母親が不在であることと明日の朝にならないと帰宅しないことを伝えたが男は二郎を押し退けるようにして部屋に上がった。ローテーブルの前に腰を下ろし、帰って来るまで待つからと言いながら袋の中から酒の入った缶を出した。  二郎は部屋の隅で本を読んでいた。男は缶を次々に空けていく。しばらくすると男が二郎を呼んだ。そこに座れと言った。二郎は本を置いて男の向かいに座った。男は酒を飲みながら話した。二郎の母親に金を貸していること。早く返して欲しいこと。二郎は黙って聞いていた。男はおまえも飲めと缶を開けて二郎に持たせた。二郎は一口飲んだ。苦い。酒が流れ込んだ口の中から喉の奥、食道や胃が熱くなった。もっと。そう言われたのでもう一口飲んだ。もっと。男は続けた。もっと。もっと。もっと。もっと。頭がぼんやりしてきた。体中が熱い。少し動いただけで乗り物酔いのような吐き気を催した。
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