犬系彼氏

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 彼の背後、ゆらりとまるで貼り付く影のように現れた。  白いワンピースに髪の長い女。  あの時の、女が彼の肩越しにニヤリと笑っている。  いつからそこにいたの!?  心臓が耳の中や、身体中の全てに存在するように、大きく早く、まるで警告音のようにドッドッドッドと鳴り出し、呼吸がうまくできない。  その真っ黒な瞳には光などなく、吸い込まれそうな恐怖を感じた。  逃げて、ねえ、逃げて――。 「どうしたの?」  無言になった私に彼が首を傾げている。 「う、後ろっ」 「え?」 「逃げて、早く!!」  金縛りのようになった私の声が出た時には、彼の首に縄をかけた女。  ギリギリと締め上げられて、苦悶の表情に歪んだ彼は、沈み込むようにモニターから消えた。 「うちのワンコがお邪魔をしました」  嬉しそうに笑ってペコリと私に頭を下げた女はそのままモニターから消えた。  這いつくばるようにして、ようやく辿り着いた玄関のスコープ越しにはもう誰もいない。  震える指先でチェーンをして少しだけ開けたドアの向こう。  ズルッズルッズルッ、カツンカツンとヒールが遠ざかる足音がした。 ――犬系彼氏――
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加