序章。

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
世界フェイズ①チュートリアル 創世神話① 始まる世界。そこには黒い海と白く光る空。 或いはその逆、黒と白は互いに互いを認めず、ただ二色の存在が揉み合い、絡み合いながらそこにあった。 あたかも、二匹の蛇が互いを食い殺そうと狙っているかのように。 ある時、なんの前触れなく光る空が海の上、ただ一点めがけて堕ちてきた。 光の堕ちたその場所は、一瞬にして煮えたぎり、天高く赤々と打ち上げられた焔の槍と共に爆ぜた。 海は黒煙を吐き出し、焔の槍は飛び散り猛り狂い、世界全体に広がった。 やがて空に向かって上り続ける黒煙は、雲となって光を遮り、世界に初めて【夜】が来た。 始まりの暗黒である。 雲はどんどん厚みを増し、闇はその暗きを深め、世界を燃やし続ける焔は、その勢いの衰えることを知らず千年、万年と燃え続けた。 気が遠くなるほどの時、もはや時を刻むことが無意味であると思えるほどの時間経て、空から一粒の水滴が、燃え盛る世界に降りてきた。 はじめての、雨。水の誕生である。 やがてそれが呼び水となり、雨は豪雨となり、嵐を巻き起こした。紅蓮の焔で燃え盛る海は大きなうねりをあげ、世界を掻き回す。 大気と風の誕生である。 何時やむとも知れぬ雨、収まりを見せない嵐。それが再び幾千年と続き、時を経るごとに世界を焼く焔は衰え、炎となり、ポツリ、ポツリと世界に点在するだけとなった。 焔の末、火の誕生である。 それでもまだ、雨は降り続く。まるで世界に残った最後の、今にも消え去りそうな小さな火種まで狩り尽くそうしているかのように。 が、火が衰えるのに呼応するかのように、海の嵐は衰え始め、風は荒れ狂うのをやめた。 火は、世界に存在を許されたと喜び、パチパチと小さく弾け、世界をさやさやと薙ぎ渡る風と歌い、二つは友となった。 火と風はともに冷たい闇を照らし暖め、世界はささやかだが、確かな温もりを得た。 それは世界が【命】魂を育む、ゆりかごとなる、始まりの第一歩だった。 世界を覆っていた分厚い黒雲は、何時の間にかその厚みを失い、その薄くなった部分から、淡い光が差し込み始めた。 それはかつて世界に堕ちてきた時ほどの、荒々しい狂おしいほどの熱と勢いを失い、柔らかく世界を包み込むように光は広がり始めた。 その仄かに温かい光は、世界を覆う黒雲を引き裂き、幾億とも知れぬ時の果てに世界は再び、光る空を取り戻した。 それはかつてのような一面を白く眩しく照らすような、全ての闇を消し去る断罪者の如くの、かつて燃え盛った焔にも似た力と勢いはなく、見上げるその殆どの空が、青々と澄み切っていた。 ただ一点、光が黒き海に堕ちた場所、その真上にただ一点。白く眩しく輝く光の塊がそこにはあった。 世界に残った、最後の断罪者の如く、太陽による光の復権である。 その光によって、消されはじめた黒雲は、滅ぼされまいと光が届かない世界の裏側へと追われていった。 かつての力を失った光の裔、太陽は黒雲がただ逃げ延びることを許さなかった。追う太陽、逃げる黒雲。 世界に昼と夜。光と闇の相剋。世界が自らの歩みを刻みはじめた。【時】の始まりである。 世界が自らの時を刻みはじめた頃、かつて世界を覆っていた黒い海は、青く透き通った水の集まりとなっていた。 焔にその身を任せ続けたのち、その全てを焼き尽くし、黒煙とそれによって生まれた黒雲に姿を変え、地に落ちてきた水に、世界を明け渡した。 海の再誕。それはまた別の存在の誕生も意味していた。 黒い海を海たらしめていたもの、その海を燃やし尽くした焔が、生み出したもの。 黒い海の残り滓、煤である。それはとても細かく、それでいてその一粒一粒が水よりも重く、青き水底へと沈んでゆく。 海は風によってゆっくりと、時には黒煙が呼び込む嵐によって激しく撹拌され、海の底に溜まり続けてきた煤は巻き上げられ、やがて一つに集まり、小さな、世界の広大さに比べ本当に細やかなほどに小さい、【島】が生まれた。 それが約束の地、【世界樹】が根付く丘。最初の【大地】となった…… 創世の女神教団【聖典】創成記第一章、第一節より。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!