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神界フェイズ①【最果てのラスカル 】〜あっ、コイツら全員悪いヤツ〜
【ラスカル:Rascal 主な意味 (名・形)・ならず者,悪党,ごろつき,いたずらっ子,下劣な 他〜】
此処は最果ての地。来るもの拒まず、去る人追わず。しかして訪れるものもなく、ただただ、馬鹿みたいに広く、雑草と小さな花が咲き乱れる草原はろくな手入れもされてはおらぬ。
ヒトの身であれば、腰に少し届かない程度に伸びた、彼ら草原の支配者よって行く足を取られ、進むも戻るもままならぬまま立ち止まる。
そして草原を軽やかに渡る風に身を任せ、その心地良さを感じながらヒトは風の囁き、導き誘うその先を眺める事だろう。
白く、高く聳え立つ大理石の巨塔。その威容を。
此処は最果ての地、ロンゴミニアド。或いは、神界システム管理統括塔『アカシックレコード』と。
『……最後の方、なんかいい感じにカッコよく【本社】所在地の紹介文書いてますけど、ダメダメですからね。今度こそ、いい加減に芝刈りに行ってもらいますよ、マスター。休日返上で』
『休日返上って、それ絶対無理でしょ〜。秘書くん、あそこどんだけの広さあると思ってんの?アカシックレコードの管理・保守点検業務に加えて、創造神代行に事務処理 (書類決済という名のハンコ部長)までやってるんですよ?』
『それについては朗報です。神界業務に於ける働き方改革の一環で、ついに『書類決済、地獄の六箇所 (一枚あたり)押印決済業務が、廃止されます。よかったですね〜これで私の仕事もスムーズになります』
『……ああ、それはそれはヨカッタデスネ?(棒読み)』
『何ですか?その、実はいい感じに時間潰し出来て、面倒になったら【私】に全部、丸投げできて楽な仕事だったのに……みたいな、覇気のない棒読みは。あと、私はマスターの秘書でも、部下でもありませんからね』
『……へえ?そうだっけ?最近、ずっと一緒にいるような気がしてたから、万年人手……神の手不足なうちの部署に総務部が融通きかせてくれたのかと……』
『その総務部トップ、神界管理と三千世界の統括・裁定を司る天秤の女神たる私が、最果ての島流し課、こんな窓の無い古くっさい、壁の黄ばんだ小さな窓口事務所に入り浸らにゃならんのか、此処ではっきり決着つけましょうか?マスター?』
『……そこまで言う?我、一応権能持ちの【代行】ぞ?。神格、遥か高みの雲上神、ハイカラに言えばCEO、ですぞ、C・E・O』
『(ハイカラって、いや此処で突っ込んだらめんどくさい)……無論、理解してますよ、当然。ですからアカシックレコードの管理人、その尊称たる【マスター】とお呼びしているでは、ありませんか。それ以上は私の上級神としての尊厳、プライドとポリシーが許しません。それに……』
『ああ、うん。皆まで言うな。分かっていますよ、僕だってね。所詮は【ヒト】の身で、あの管理棟(塔)に幽閉され、永遠の奉仕活動【全ての世界を見守り続ける】だけの、ただの非力な似非魔術師ですからね。代行の肩書きすら、今日をもって終わりって言うね』
『すみません。少し、言い過ぎました、マスター。私は貴方が【ヒト】である事を嘲っているわけでは、無いのです。それに、私も元はただのエルフィン、妖精族出身ですから……』
『うん、気をつかわせて悪かったね。まあそれも今日まで、もうすぐ来る【面接希望者】に業務を引き付き、正規の創造神が着任さえすれば、晴れて【私】は元の引きこもりの覗き魔生活に戻れるわけだし。今後は余計な気遣いも無く、フレンドリィ〜に【マーリンお兄さん】と呼んでくれても、いいよ?』
『それは丁重にお断りいたします……そう、【彼女】が例の。けれど本当に今日、来るのですか?色々あってなかなか大変なご様子……』
『うん。来るはず、だよ。アカシックレコードの最新観測結果によれば、だけども。不確定要素も、多いんだけどね〜。色々と』
『例の【一億年ボタン】計画の実施世界線、出身ですよね。よくもまああれ程悪どい、外道な計画思いついたものですね、マスター。それだけでも軽蔑に値しますよ、普通』
『よろしい、褒め言葉と受け取っておくよ。最優秀な【共犯者】からの、ね』
『……嬉しくはありませんが、その評価は甘んじて受けましょう。それはそれとして、最新観測結果といえば、今朝の
【毎日更新!神力オーラ別、アカシックレコード観測占い(無料版)】は何?私の項目、
【今日は何だかウキ×2・ワク×2、気になるあの人との距離が大きく縮まって、貴方の世界が新しく書き変わっちゃうかも〜?ラッキー前兆は、初めて会う人とびっくり仰天な出会い】って……』
『……うん。僕が直接書いた。観測システムの自動書記じゃなくて』
『(観測データですらなかったかっ!)……貴方ってヒトはっっっ!』
『……っ!まった、どうやらご到着のようだよ?【彼女】が……』
次の瞬間、小汚い事務所部屋の扉が、ノックも無く唐突に開け放たれ、壊れそうなほどの音を立てて壁へ打ち付けられた。
「私をここで……っ!?ぬぷべっ!……痛っっっ……働かせてくださいっ!」
……反動による扉の逆襲を食らい、おでこに著しいダメージを負い、その場にひざまづきながらも、毅然として顔を上げ言い放ったそれは、色白金髪の碧眼美少女。ポンコツが玉に傷な、部屋の外の廊下まで透けて見える、残念なくらい美しい女神だった……。
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