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 私は、祥平君に何と声を掛けたらいいのか分からなかった。ただただ、黙ることしか出来ない自分が悔しかった。  暫くして、祥平君は語り出した。 「俺には、年の離れた姉が居ました。10歳も離れていたから、姉というよりはどちらかと言えば母親的存在だったかな。姉が大学生になると、仕事で忙しい母に代わって参観日とかにも来てくれてました。」  どこか懐かしそうに、当時のことを思い出している祥平君だった。 「俺が小学4年の頃、姉は二十歳でした。姉は突然自殺しました。当時付き合っていた彼氏が交通事故で亡くなって、その一週間後に地下鉄のホームから飛び降りました。その知らせが来たのがちょうど今と同じくらいの夕方で、俺は母と家に居たんだけど、電話を受けて母が泣き崩れた姿を、今でもはっきり覚えてます……。」  まさか祥平君にそんな辛い過去があったなんて、知る由もなかった。私は驚きを隠せなかった。 「姉は辛かったんだと思います。でも、残された俺たち家族は、それ以上にもっと辛くて苦しかった。今だってそう。ずっとずっと、これからも一生死ぬまで、このことを引きずっていかなければならないんです。母は今でも急にパニックを起こすし、父も何かのきっかけで突然涙を流すことがある。俺だって、いまだに夢に見ますよ、あの日のこと。」  私の思っている以上に、祥平君の心は苦しんでいた。 「どんなに辛くても、自らの命を絶つのはダメです。悲しむ人が、苦しむ人がたくさんいる。俺が身をもって伝えたいです。」  深く溜め息をついた祥平君の手を、無意識のうちに握っている私だった。
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