303

1/1
前へ
/305ページ
次へ

303

 やっぱり、さすがに結婚前の男女が、一部屋で過ごすというのは健全ではないよね…。  私は、母の腕を引いてこっそり耳打ちした。 「お、お母さん!こ、これ、だ、だめだよ!私たち夫婦じゃないんだし。」 「あら…、そっか。それもそうね。私ったら勘違いしてたわ。ごめんなさいね。じゃ、玖実は隣の部屋にしましょうか。普段璃玖たちが泊まるのに使ってる部屋だから、虎太郎の着替えとかオムツとかあるけど気にしないで。布団、移すわね。」  母は焦り笑いと共に、布団を一組隣の部屋に移動した。  私は祥平の元へ駆け寄り、事情を説明した。 「あ、あのさ、さすがに一部屋で、しかも布団もピッタリ隣同士ってのはマズいよねって…。わ、私、隣の部屋に移ることになったから。へ、変に思わないでね。決して祥平のことが嫌なわけではなくて…。」  すると祥平は柔らかく微笑んだ。 「だよな。さすがにあれはマズいだろ。大丈夫、これでいいんだよ。」  祥平の反応に、私はホッとした。    翌朝。私たちは、私の両親と一緒に朝食を摂り、実家を出発するために荷物をまとめていた。ふと、祥平が口を開いた。 「改めて、玖実のご両親、めっちゃいい人だって思った。ここも凄く落ち着くし、お兄さん夫婦も優しくて、虎太郎君にも会えたし、ホントいい仙台旅行になったよ。ありがとう。」  祥平が私の家族を絶賛してくれたことが、とても嬉しかった。 「ありがとう。良かった。ホントは、せっかくの仙台旅行なのにウチに泊まるのって嫌じゃないかなーって心配だったんだけど、そう言って貰えると嬉しい。結局、ウチのお母さんがリフォームした我が家をお披露目したかっただけだったんだよね。そんなのに付き合わせてごめんね。」  祥平は微笑み、首を横に振って言った。 「これならこの先、いつも安心してここ来れるよ。」 「えっ?祥平、いつもここ来るってどういうこと?」 「あっ、いや、あの、その…、またこんな機会があったらって話で…。」  祥平にしては珍しく、あたふたしていた。  祥平、もしかして…。 「く、玖実が赤ちゃん抱っこしてたら、俺もお兄さんみたいに抱っこ代わってあげたり、オムツ取り替えたりしてあげるから…。」  これまでにないくらい顔が真っ赤に染まった祥平が、可愛くてたまらなかった。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加