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祥平君が、私に会いたかったって、本当なの…?
私は祥平君の言葉が信じられなかった。夢を見ているのでは?と何度も何度も自分に問い掛けた。
「わ、私に?ど、どうしてそんなに会いたかったの?」
私がそう言うと、祥平君はリュックから何かを取り出した。
「はい、これ。」
祥平君が私に差し出したものは……
片方だけのイヤリングだった。
「あの日の電車で、玖実さんが立ち上がった瞬間に落ちたんです。それで渡そうとしたら電車の扉閉まっちゃって…。大切なものだったらいけないと思って、早く渡したかったんです。」
そういえばあの日、私は帰宅後にイヤリングの片方が無いことに気付いたのだった。あの日は大学受験の合格発表日、勝負時だったから、おばあちゃんからプレゼントで貰った宝物のイヤリングをつけて出掛けていた。しかし、大学も落ち、大切なイヤリングも落とし、不運続きで物凄く落ち込んでいたのだった。
イヤリングのことはもう諦めていたのに、こうしてまた私の元へ戻って来るなんて…。しかもそれを届けてくれたのが祥平君だったなんて…。
運命ってヤツかな……。
「祥平君ありがとう。このイヤリング、おばあちゃんから貰った大切な宝物なの。もう戻って来ないと思ってたから、今めっちゃ感動してる。ホントにありがとう。」
祥平君はまた柔らかく微笑んだ。
「良かったです、無事に渡せて。もう落とさないように気を付けてくださいね。そして、受験頑張ってくださいね。」
“受験頑張ってくださいね” ってことは…、
もしかして祥平君は、私とはもうこれっきり会わないつもりでいるのかな……。
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