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トランジスタグラマー
「この仕事ついてから雨なんて好きになったことない」
「うん。あ。健一郎。今日、何時に家出るんだっけ」
「9時ごろ。のぞみが仕事に出た後。ご飯の片づけはしとくから」
「ありがと。気を付けてね」
健一郎は今日、近場へ同僚と一泊二日の温泉旅行。
シフトの関係で平日に休みが取れるのが私にはうらやましい。
「健一郎、浮気じゃないよね」
と私は言ってみた。
「あ。心配してくれてる」
なんて笑ってる。
まあ、その一言で喜んでくれるならいい。
「一緒に暮らしてから夜ばらばらになるのは初めてだね」
「そっか。のぞみがこの部屋に来てからずっと」
「うん。寝てるときは隣に健一郎がいたんだよ。私、ちょっと今不安になったよ。今晩一人で過ごせるか」
「俺も。のぞみの体がそばにないのが」
と言って、洗い物を終えた手で私の尻を撫でている。
私はちょっと小柄だけど、いわゆるトランジスタグラマーなのだった。
「やっぱ、私の体目当てで」
「違う。のぞみの心と体目当てで」
「ご飯食べよ。急がなきゃ。私が」
「うん」
健一郎はご飯を茶碗によそいはじめた。
「のぞみ。今日の天気予報、見た?」
「大丈夫みたいだよ。そっちもこっちも大体一緒。天気が崩れるのは夜。で、また朝には晴れてる」
「おっけ。俺、ホント雨、嫌い」
「ははは」
「雨が好きって言うやつも嫌い」
「うん」
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