ズッキー

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ズッキー

健一郎に玄関で送られ、私は家を出て電車に乗った。 私が勤めているのは、とある街の乾物問屋。 社長と奥さん、息子さんに他の従業員はドライバーと私だけ。私は主に経理を担当している。今は3月末。経理もちと忙しい。 運よく前の座席が空いて、私は座ってスマホを出した。 毎朝の日課。ズッキーのブログ見ないと。 ズッキーは、私の一押し。アイドルユニット「ハリケンタイフーン」の逗子輝一のニックネームだ。 ズッキーのファンだってことは、実は健一郎には内緒。なんかこっぱずかしいしね。  おっはあ。  ずきずきはあと、きみだけのズッキーだよお。 相変わらず、馬鹿だなあ。 でも、そこが好き。  昨日はねえ、ちょっとおこおこなことがあった。  これ見て。 ん?段ボールの写真だね。  これね。でこぽん。田舎から送ってきたんだけどさ。   あ。もう一枚写真。同じ段ボールのアップだ。その角の所。 でも、何?  わかった?  わかるよね。  角の所、濡れてるんだよ。 あ?ああ。 あ。これか。角に一か所、ちょっとシミ。  僕ね、こういうの許せない人なの。  ちゃんとやろうよ、大人なんだからって。  そんで、持ってきた某宅配会社のおじさんつかまえてね。  30分位説教してやった。 ありゃりゃりゃ。  おじさん、すごい謝ってんだけどさ。  反省するぐらいなら初めから濡らさなきゃいいわけじゃない? 謝っても許さなかったのか。  そんなわけでブルーな午後。  でも、救われたこともあったんだよ。 今度は、窓かららしい雨の景色の写真。  ぷんぷん怒りながらゲームしてて、カーテン開けたら雨で。   おじさん、濡れたでこぽん持って来たんだよね。 ズッキー、雨って知らなかったのか?  窓を開けたら雨音が気持ちいい。  雨の音がおじさんのおかげですさんだ僕の心を癒してくれる。  そのうち、僕の心が、雨の音とシンクロした。  僕の心が、雨になった。 ああ。  僕、雨が好きかもって思ったよ。      
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