愛されるということ

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愛されるということ

『今こんな立場で言えるのかなと悩んだのだけど、寧々ちゃんのことをいつか本当に幸せにしたい。守りたい。って本気で思ったんだ。時間はかかるかもしれないけど、大切にしたい。俺と付き合ってほしい。無理はしないでいいから。』 真剣な眼差しで真は言った。 どこか落ち着きがなく、いつもの真ではなかったが、それが本当に一生懸命に気持ちをぶつけてくれたのだろうと、そう寧々には映った。 寧々は素直に嬉しかったし、こんなにも真剣でピュアな告白は独身時代にもされたことがなかった。 愛されるということはこんなにも幸せで、こんなにも安心感があるものなんだと。 今更そんな単純なことに気がついた。 今までたくさんの恋愛をしてきたけれど全く違うものに感じた。 『真くんのことはまだよくわからないけど、私は真くんのことをすごく信じられるし、ついていきたいな。って思ってるよ。』 にっこり微笑んで寧々はそう言った。 こんなに余裕のある恋愛は寧々は初めてだったのかもしれない。 15年間氷のように冷たく固まった心が柔らかく解け、本来の寧々の姿を取り戻していくように感じた。 その日は初めて一瞬手を繋いで、駅まで送ってくれた。 寧々はこんなに幸せな気持ちになれることに驚くばかりだった。 その日から寧々は家事や子ども達との時間も本当に充実して過ごせるようになった。 女性は愛されて輝く。 愛されているという自信をもつことで輝く。 などというフレーズが事実であることを次々と証明していった。 肌艶がまず良くなり、体調も滅多に崩さない。 髪質まで良くなり、周りには寧々ちゃんなんかキラキラしてる!と水光注射などを疑われた。 今まで無縁だった色気もじわじわと出はじめ、美容の意識も高まっていった。 10年間なっては治りを繰り返し苦しんでいた円形脱毛症もこの頃から発症しなくなっていった。 寧々が恋愛体質だからなのか、 康介との生活が相当なストレスになっていたのか、 それはわからないけれど、今の状況がいい方向に向かっているのだけはわかった。 罪悪感などというものはその時は本当になかった。 この時の1年ほど前から、寧々の次女が不登校になりかけていた。次女の性格的に寧々は自分が一度でも休むことを許したら本当に不登校になってしまうと思っていたので、どんな状況でも毎日登校だけはさせようと思っていた。 朝学校に連れて行っても泣きわめく次女をなだめ、寧々が家に戻るのはお昼頃になることも少なくなかった。先生方にもすごく迷惑をかけたと思う。 その申し訳なさと、自分の無力さと、これで良いのかという不安と、娘を信じる気持ちと、いろんな感情に押しつぶされそうになっていた。 そんな朝、長期での出張に出かける康介に後ろからハグした。もう頼れるところはその時彼しか居なくて助けて、、という気持ちで、追い込まれていたのかもしれない。 すると、もういかなきゃいけないからとさっとふり払われた。 康介は次女はなんでこんなふうになるんだ。 としか言わず寧々をフォローするどころが話をする機会も持たず、全てを寧々に任せていた。 それは寧々の仕事で責任だという考えしかなかった。 学校の先生との面談などにもなかなか足を運ばなかったが、一度だけ一緒に出向いた。その時康介は、 『次女は嫁と頭の構造が同じなんです』 そんなことを言い放った。 きっと学校でも家庭環境に問題があるのだろうなと思われただろう。 しかし夫婦関係が破綻していて、康介が寧々のことを下に見ていること以外はごく普通の家庭だ。 康介は非情なところはあるが、子ども達のことは普通に可愛がってはいたし、家事も自分の得意な分野に関しては積極的にやるという一面もあった。 原因は何かわからないが、娘のことをよく観察して、寄り添って、絶対に諦めないのが寧々がしてあげられることの全てだと思っていた。 真と出会ってからもこの状況は続いていたが、 真は毎朝、今日は大丈夫だった?と連絡をくれた。 今日はちょっと厳しかったなぁ、、と寧々が返信すると真はすぐに、何か美味しいものでも食べ行こう! と爽やかに言った。 『寧々ちゃんが落ち込んでたら娘ちゃんを余計苦しめることになるから、娘ちゃんが帰ってきたら今日も頑張っていけたね!ってたくさん褒めてあげて』 といつも励ましてくれた。 そのおかげで真と出会ってから寧々の次女は徐々に一人で学校に行けるようになっていった。 真はこういうのは本当は旦那さんがやるべきことなんだけどなぁ。と言っていた。 やっぱり寧々のことは放っておけない。 寧々と子どもたちを自分が守りたいという気持ちが 芽生えていった。
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