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prologue
どうして……こんなことになっているのだろう?
湿り気を帯びていた都会の夜の温い空気が嘘だったように冷えたホテルの部屋。開け放たれたカーテンの向こうには近くのビルのネオンライトがチカチカと反射していた。ほんの一部だけ点灯された部屋のライトはベッドの周りだけをほんのりと照らしている。そんな薄闇の中で見えるのはお互いの姿だけ。
「やっ……。待っ、て……」
ベッドの上で私を組み敷いたまま、その人は妖しい笑みを浮かべながらネクタイに指をかけるとシュルリと外す。
「待てねぇよ」
意地悪く口角だけ上げるその顔は、ギリシャ彫刻を思わせるほど整っている。その髪色は光に当たるとより輝く栗毛。一八五センチという恵まれた身長に、筋肉が程よくついた体躯。すべてに置いて日本人離れしている。その姿はいつも周りの人間たちの視線を強烈に惹き寄せていた。
自分はそんな人たちと決して同じではない。この人に惹かれたわけじゃない。ただ、誰でもいい。束の間の温もりが欲しかっただけだ。
この行為に同意はした。覚悟した上でここにいる。はずなのに。いざとなるとすくんでしまう。体を重ねたあと、私たちはどうなってしまうのか。
でも、もう逃れるという選択肢など残っていない。
今から全てを喰らいつくしてやろうと虎視眈々と狙う瞳は、私を捉えて離さないのだから。
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