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「彼女へのプレゼントなんですけど、あれなんかどうですか?」
日生は背後の棚に並んでいたヘアピン類を軽く指差した。
「僕と一緒に練習してた頃はおしゃれをしてたイメージがなかったので……」
「ヘアアクセサリーか。わかった、ありがとう」
まんまと彼につられて彼女へのプレゼント選びに付き合わされてしまった。今は新田への発表会で渡すプレゼント選びをしている最中だったのに。手に持っていたオルゴールをレジまで持っていく。支払いを済ませると、入り口付近でまた彼が、何か言いたそうな顔をして待ち構えていた。
「まだなにか……」
「君は失敗を恐れてるんだろ? 男と付き合うなんてきっと後悔する。付き合うなら私にしておけばいいのに」
木戸宮は投げ捨てるように言い放つ。
「……」
なにも言い返せなかった。日生は引き止められ、木戸宮の言葉に頭の中が撹乱させられた。どうしてこの男にそんな風に言われなければならないのだろうか。憂さ晴らしのつもりなら、彼女の相手をしてればいいのに。
――也実には絶対わからない。僕が春吉君を好きになった気持ちなんか――。
――一瞬でも抱きたいと思った気持ちなんか――。
「彼にそのオルゴール渡せるといいね」
新田に一度顔を合わせたくらいで彼を知ったような気になるなんて、この男はどうかしてる。
外はしとしとと霧雨が降っていた。天気はこれから下り坂といったところだろうか。日生は自分の恋心に自信喪失になっていた。帰り道で泣きそうになるのをマフラーで隠して堪える。
木戸宮から『第一印象』という言葉を聞いたとき、逆に自分はどう思われていたのか、ふと気になった。
――春吉君の僕の第一印象って、なんだったのかな。
憧れに少しでも近づいて、それでいてさざなみの様に心は敏感で、手に届かなくて最終的には深い底に突き落とされる。日生はそんな経験を過去にしている。
新田はきっと勘が鋭い。最初に会ったときから日生のことを、堂々としているようでもどこか臆病で繊細な一面があると気づいているかもしれない。
帰宅して、真っ暗闇に包まれた部屋でスマートフォンを手にした。日生は新田に体調不良の連絡を入れた。
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