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飲食店探しはそんなに得意な方ではない。ただし、この面子に限っては必ず行く場所が決まっていた。
店の前で待っていた友人が声をかけてきた。
「新田君、お久しぶり」
「春っち元気にしてた?」
「髪型昔っから変わんないね」
合唱祭のときに指揮をしてくれた男子一人と、色々とお世話になって仲良くしてくれた女子二人を俺は誘った。
「みんな来てくれてありがとう」
店内に入って案内された席に着く。それぞれドリンクを注文した。俺のことをあだ名で呼ぶ彼が口を開いた。
「俺らが呼ばれたのって、なにかあんだろ?」
「うん。実は俺最近ていうか、今年からピアノ習い始めてさ。それで今度俺が出る発表会が二月にあるから……」
見に来て欲しいの一言を伝える前に、彼女たちが嬉しそうに反応する。
「新田君ピアノ始めたんだ! 聴きたい聴きたい! もちろん見に行くよ!」
「あたしも予定空けとくね」
「じゃ、今練習真っただ中ってわけか」
「そうだね。あともう少しで完璧に弾けるってとこかな」
料理が運ばれてくる前に、伝えたいことは伝わった。このあとの話題についてはノープランだ。お好み焼き用のタネが運ばれてくる。
「焼き担当が俺で、マヨ担当春っちだったよな」
「懐かしいね。覚えててくれて嬉しいな」
お好み焼きが鉄板の上で焼ける音がしながら、昔の合唱祭の話をしていた。
「新田君てほんとひたむきに練習頑張ってたよね」
「全然歌わなくてサボってる奴いたのに、真面目だったというか……」
「俺が半分イライラしながら指揮棒振ってたのに、お前のお陰でなんか丸く収まったっていうか」
焼き担当の彼が、お好み焼きをひっくり返しながら呟いた。要するに辛いの一言も文句も言わずにピアノの伴奏をやっていた俺の姿に心打たれたという話だった。
――そんなに綺麗事ではない気もするけどなあ。
みんなが話してるうちにお好み焼きがしっかり焼けた。俺は横に置いてあったソースとマヨネーズを取ってそれに勢いよく網目模様にかけた。完成したお好み焼きを十字に切り分け、お皿に乗せてみんなに配った。
黙々と食べながら、話題はいつの間にか将来のことや結婚についてに変わっていった。
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