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そいう俺も本当は嬉しくて、発表会が終わる頃には先生ともっとイチャイチャしたいと思っていて、頭の中が花でいっぱいになる。
「まだ先生って呼んでもいいんだよ? 春吉君?」
「はい。先生……」
「発表会は年齢順関係なく、コースで決められてるから、多分春吉君は初心者だから最初の方だよ」
「え!? そうなんすか!?」
俺はガタッと椅子から落ちそうになりかける。いいリアクションだねと言って先生は微笑んだ。
「僕も演奏に参加するから、リラックスして臨んでよ」
「はい。頑張ります!」
レッスン最終日は、俺が完璧に曲を弾けたお陰で、曲目に対しての先生のコメントはなく終わった。
発表会の日を迎えた。他のレッスン生も何名かいて、関係者がぞろぞろ座席に着いている頃だった。
俺はホールの裏側で待機していた。近くに置いてあるモニターで会場の様子が少し窺い知ることができた。でも安心はできなかった。緊張感に包まれる中、自分の出番が刻々と迫ってくる。
アナウンスで呼ばれ俺の番が来る。先生にそっと肩を押されて俺はステージに立って一礼した。
グランドピアノの前の椅子を少し引いてそのまま座る。深呼吸をして、ライトアップされたきらびやかな鍵盤を数秒間見つめた。
――いつも通りに……楽しく……。
一音一音確かめていくように、演奏が始まった。
リズミカルで軽快なメロディが、会場内に可憐に鳴り響いた。奥の座席の方で確かに俺の友人は見ていた。端の方には会社の人達も見えた。
短い曲の中に、様々な感情や想いが詰まっていた。楽しそうに弾いている時間はあっという間に過ぎて、俺は最後の一音を弾き終えると、なぜだかやりきった顔をして恰好をつけていた。いわゆるドヤ顔というやつだ。
俺の発表会を楽しみにしていた彼女が花束を渡しに、ステージ側まで来てくれた。ありがとうと一言伝えると、彼女は再び座席の方へと歩いて行った。拍手が鳴り止まない間に、俺はステージから退場した。ステージ裏で日生先生が「頑張ったね」と言いながら強く抱き締めてくれた。
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