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このあとも発表会は続き、日生織人を含む数名の講師の演奏を聴いたあと閉幕した。先生はドビュッシーの『アラベスク』を演奏していた。
エントランスに出ると、各々親子で記念撮影をしていた。会社の人達に挨拶を交わしたあと、招待した中学時代の友人にも一言声をかけられる。
「新田君、かっこよかったよー」
「そ、そうだった? なんか照れるなあ」
「春っち素直に喜んどけよ」
「案外可愛い曲弾くんだねえ。あたし感動しちゃった」
「あはは。みんな見にきてくれてありがとね」
中学時代の同級生との会話が弾んだあと、俺は日生先生のところに戻った。先生はなにか渡したい物があると言って、小さい白い箱のようなものを俺に渡してくれた。
「中身開けてみてもいいですか?」
「いいよ」
箱を開けると小さな箱がまた現れた。
「オルゴール……ですか?」
「うん。今日春吉君が弾いていた曲と同じ曲のね」
「うわあ……ありがとうございます! 大切にします!」
俺は先生から受け取ったオルゴールを大事に鞄にしまった。先生の顔を見るなり、つい舞い上がってしまう。
「これからは、先生……じゃなくなりますよね?」
俺はぼそぼそと先生に聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で言った。
「ふふっ、春吉君、どうしたの?」
想いは伝わっていたらしい。先生が俺のことを下の名前で呼んで――俺から誘ってキスしたことも、何もかもが愛おしい。日生織人が愛おしくて仕方がなかった。
家に帰って、早速オルゴールを鳴らした。
――確かにこう聴いてると可愛い曲だよなあ。
――……いや、俺のことじゃないと思うんだけどなあ。
オルゴールを聴きながら、口を尖らせながら呟いた。きっと日生織人のことでもある、と俺は心の中で思った。
オルゴールの隣に置いてあったスマートフォンが突如鳴り出した。先生からの通知だったので俺はニヤニヤしながらすぐ返信した。
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