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4.
「茜、お疲れさま。今日はありがとう」
自宅の玄関で、浩史は妻に優しく声をかけた。息子の三歳の誕生日を実家で祝ってもらい、戻って来たところだ。
「お義母さんもお義父さんも優しくしてくれるもの。疲れたりしてないわ」
「うちの両親、茜のこと大好きだからなぁ」
「わたし、逆に心配になっちゃう。嫁に気を遣いすぎて、お義母さんの方が疲れてるんじゃないかしら」
「大丈夫だと思うけど……どうかな、母さんの脳が人間と同じ構造かなんて、わからないからさ」
「やめてよ、そんな言い方」
ネックレスを外しながら、茜は少し顔をしかめた。
「ごめんごめん、でもさ、おれホントに嬉しくて。誰もわかってくれなかったんだよ、母さんの顔が、チベットスナギツネにしか見えない、なんて」
父にも友達にも笑い飛ばされ、理解者を得ることなど、浩史はほとんど諦めていたのだが。
茜だけが、紹介した母の姿に息を呑んだのだった。
「初対面のときは……あなたもお義父さんも、お義母さんと普通に接しているから、わたしの目どうかしちゃったのかとドキドキしたわ」
「おれなんか二十年も、自分の頭がおかしいんだと思ってたさ」
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