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「茜、お疲れさま。今日はありがとう」  自宅の玄関で、浩史は妻に優しく声をかけた。息子の三歳の誕生日を実家で祝ってもらい、戻って来たところだ。 「お義母さんもお義父さんも優しくしてくれるもの。疲れたりしてないわ」 「うちの両親、茜のこと大好きだからなぁ」 「わたし、逆に心配になっちゃう。嫁に気を遣いすぎて、お義母さんの方が疲れてるんじゃないかしら」 「大丈夫だと思うけど……どうかな、母さんの脳が人間と同じ構造かなんて、わからないからさ」 「やめてよ、そんな言い方」  ネックレスを外しながら、茜は少し顔をしかめた。 「ごめんごめん、でもさ、おれホントに嬉しくて。誰もわかってくれなかったんだよ、母さんの顔が、チベットスナギツネにしか見えない、なんて」  父にも友達にも笑い飛ばされ、理解者を得ることなど、浩史はほとんど諦めていたのだが。  茜だけが、紹介した母の姿に息を呑んだのだった。 「初対面のときは……あなたもお義父さんも、お義母さんと普通に接しているから、わたしの目どうかしちゃったのかとドキドキしたわ」 「おれなんか二十年も、自分の頭がおかしいんだと思ってたさ」
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