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「体育祭ですっげぇ日に焼けた! 顔の皮めっちゃむけててやべぇ」 (どこが焼けたのかしら……元が黒いから全然わからない)  思春期の男の子は、ローションを塗ってくれなどと、母親に頼んだりはしないし。 「おれ、ネクタイ結ぶの苦手。動画観てもよくわかんないし」 (その首周りでネクタイを……ほうほう)  就活のこういう悩みには、父親が対応してくれればいいわけで。  幸いなことに、浩史が虫に見えているのは私だけのようなので、私さえ黙って「ほうほう」と思っていれば、平穏な日々は矢のように過ぎていく。 「ほうほう」は人生を平らにする呪文のようなもので、とりあえず内心でそう呟いておけば大抵のことはやり過ごせるという知恵を、私は五十余年の人生で学んでいたのだった。
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