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「実は、父さんと母さんに報告することがあってさ」  浩史がどこか神妙な口調でそう切り出すと、茜さんは背筋を伸ばしてえくぼを見せた。 「3月に、子どもが生まれる予定なんだ」  息子と嫁が、目を細めて見つめ合う。その仲睦まじい様子に、私と夫も微笑み合った。 「おめでとう」  夫がまず、向かいに座る二人に祝辞を述べる。  誕生日でも母の日でもない休日に、息子夫婦が会いに来ると連絡があったときから、こういう報告をされるだろうと予想はしていたのだ。 (ほうほう、初孫ですか) 「茜さん、体を大事にね」  ゆっくり過ごせとも、病気じゃないんだからぎりぎりまで働けとも、言ってはいけない。姑に言われたことは、実母の十倍うっとおしいものだ。  私は息子夫婦ににっこり笑い、サラダの支度にかかった。  ダイニングでは、朗らかな会話が続いている。今どきは子どもや孫の顔が見られない人も多いというのに、我々はなんて恵まれているのだろう。 「茜さんに似た、かわいい子が生まれるといいなぁ」  夫のそんな軽口に、私の動悸が加速した。  想像も、覚悟もしていた。けれど、息子夫婦を目の前にすると、非現実的(シュール)な空想が身に迫る思いがする。  孫は一体、どんな姿で生まれてくるのだろうか。
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