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浩史が生まれたとき、私の目に彼の姿はちゃんと、人間の赤ちゃんとして映っていた。
虫に見えるようになったのは、幼児の頃からだ。
水たまりに飛び込み、泥まみれで遊び、タッパーいっぱいに詰め込んだダンゴムシを満面の笑みで見せてくる息子。なんだか得体の知れない、異質なものを見るような気持ちになったのが、はじまりだったと思う。
「変な冗談はやめろよ」
浩史がときどき虫に見えると打ち明けたら、夫は怪訝そうな顔でため息をついた。
「わかるよぉ、男の子ってほんと、虫みたいだよねぇ」
ママ友達にはそう同調されて、それ以上は踏み込めなくて。誰にも相談できないまま、息子が小学校に上がる頃には、彼の姿は完全に虫になっていたのだ。
さて、孫はどうだろう。
もしかしたら、人間の赤ちゃんに見えるだろうか。はじめだけ……それか、一生?
もしもそうでなかったら。
私は孫をちゃんと、かわいがってやれるだろうか。
私はレタスに付いていた青虫を箸でつまんで三角コーナーに放り込みながら、胸のドキドキがこぼれ出ないよう口をつぐんでいた。
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