3.

1/3
前へ
/11ページ
次へ

3.

「ほぎゃあ、ほぎゃあぁ」  産院の廊下に、かわいらしい泣き声が響いている。  これはきっと、初孫の声に違いない。息子の後ろを夫と並んで歩きながら、私は高鳴る胸をコートの上から押さえた。  生後三日目の初孫と初対面。いよいよ、その時が来てしまったのだ。 「茜、入るよ」  浩史が声をかけ、個室のドアをスライドさせる。正面のベッドでは入院着の茜さんが、まだ覚束ない様子で赤ん坊をあやしていた。  ごくり。自分が唾を飲み込んだ音が脳に響く。  嫁に抱かれた孫はバスタオルにくるまれていて、その姿がまだ見えない。 「こんにちは」 「やあ、おめでとう」 「茜さん、お疲れさま」  あいさつと労いを交わすうちに、赤ん坊が泣き止んだ。それを(しお)に、嫁が腕の包みをこちらに傾ける。 「あの、よかったらだっこされますか?」  初孫の顔を覗きこんだ夫は、いやいやと言いながら、血管の浮いた両手を胸の前で振った。 「ちょっと小さすぎて、怖いな。退院してからにさせてもらうよ」 「お外のバイ菌を赤ちゃんにつけたら大変だから。私も今日は、お顔だけ見せてもらえれば充分よ」  出産で疲れ、寝巻き同然の嫁のところに長居するなど無粋だ。元気な初孫の顔を見た私たちは、ものの十分で息子夫婦にいとまを告げた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加