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 息子が虫にしか見えない。  弱虫とか、虫ケラだとか、そういう比喩的な話ではなくて。文字通り、私には息子の浩史(ひろし)が虫にしか見えないのだ。  私は虫が苦手なので、じっくりは見られない。詳しくもないから種類や名称はわからないけれど、息子の姿は、ツノのないカブトムシ、といった感じだ。 「お母さん、この青いシャツと黒のパーカー、どっちがおれに似合うと思う?」 「え? あ、そうねぇ……」 (似合う、とは?) 「下はジーンズなんだけどさ」 (ジーパン、よくはけたわね……どうなってるのかしら……あんまり見たくないけど) 「うーん、青いのはさわやかだし、黒はシュッとしてて、カッコいいと思うよ」  この手の質問に、はじめはドキドキしたけれど、息子がちゃんと人間の姿に見えていたとしても、返答はあまり変わらないかもしれない。  そう、私は気づいてしまったのだ。実生活において、息子が虫に見えていても、別に問題はないということに。
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