19人が本棚に入れています
本棚に追加
1.
息子が虫にしか見えない。
弱虫とか、虫ケラだとか、そういう比喩的な話ではなくて。文字通り、私には息子の浩史が虫にしか見えないのだ。
私は虫が苦手なので、じっくりは見られない。詳しくもないから種類や名称はわからないけれど、息子の姿は、ツノのないカブトムシ、といった感じだ。
「お母さん、この青いシャツと黒のパーカー、どっちがおれに似合うと思う?」
「え? あ、そうねぇ……」
(似合う、とは?)
「下はジーンズなんだけどさ」
(ジーパン、よくはけたわね……どうなってるのかしら……あんまり見たくないけど)
「うーん、青いのはさわやかだし、黒はシュッとしてて、カッコいいと思うよ」
この手の質問に、はじめはドキドキしたけれど、息子がちゃんと人間の姿に見えていたとしても、返答はあまり変わらないかもしれない。
そう、私は気づいてしまったのだ。実生活において、息子が虫に見えていても、別に問題はないということに。
最初のコメントを投稿しよう!