初恋のわすれもの

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 おかっぱ頭で、前髪の片っぽだけ小さな花のついたヘアピンで留めていた子。  五歳の僕の初恋。  ……なんて、自分で勝手に呼んでいるけど、本当は最近までその子のこと、覚えてた訳じゃないんだ。だって、あの子はジャングルジムの近くで、仲間に入りたそうに僕らを見ていて、僕もそれが気になってちらちら見ていただけだから。  しかも、それ以来、見かけることはなかったんだ。  そう、あの子は何かの理由で消えてしまった。そして僕もいつしか忘れてしまっていた。  それから十三年後。僕は高校三年生になった。男子校。いちおう大学受験はするつもり。理容院を経営する親は進学のことは何とも言わなかったけれど、僕はやっぱり大学に──それも東京の大学に行きたいと思っていた。アルバイトも一生懸命やって、東京暮らしをしたいな、と正直思っていたんだ。  新しい希望進路別にクラス分けがされた。桜が舞うなか、僕は気を引き締めて学校に通おうと思っていた。中学からやっていたバスケ部も実質的に引退。もう次のステージが始まっている。  そんなころに、に会ったんだ。新たなクラスメイトという形で。  早川優紀という女の子のような名前だけど、だった。  色白で髪が細くてさらさらで、首がすっと長くて、詰襟を着てなかったら、本当に女の子だと思ってしまいそうだった。  はじめてのクラスミーティングのあと、帰りじたくをしていると、彼が僕の机の横に歩いてきて、さわやかな笑顔を見せたんだ。 「馬場あきらくん、ずいぶん久しぶりだね。ていうか、君がバスケ部で活躍していたころから僕は知っていたけど。クラスメイト、よろしく」  僕はあんぐりと口を開けた。まったく覚えがない。こいつ、最速でクラスメイトの名前を覚えたのか? いやいや違うぞ。バスケ部のころから僕のフルネームを知っていたらしい。しかも、「久しぶり」ってなんだ?
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