CLOSER 事件No.3 「箱庭遊戯」

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 □  コの字型に建てられた煉瓦造りのそこは、中庭に今が盛りと美しい夏の花が咲きほこっていた。緑の木々をとおり山から吹きおりてくる風の密度が、濃い。そこでタブレットを開いていた紬は、端末が告げる呼び出しを告げて心地よい緑と花のガーデンに背を向けた。 「おそいぞ、紬」  オフィスに足を踏み入れて、課長の声がささった。 「すみませ」そう返そうとした紬だったが、モニターに拡大された遺体写真に言いかけた言葉がとまった。  モニターいっぱいに展開されていたのは、女性の遺体だった。 「……刺殺死体、ですか。いつの事件です?」 「何年前の未解決事件か、という質問なら的外れだ。この遺体は現在も横浜県警が捜査中の、殺人事件被害者だ。牧村沙智、三ツ木不動産勤務の会社員、殺害現場は牧村沙智の自宅アパート、容疑者や凶器もふくめて捜査中ーーと今ブリーフィングしたところだ」  ちくり、と棘を刺すような樫家の言葉と視線に頭を軽く下げて、紬は席に着いた。
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