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(6)
月明かりが差し込むリビングでぼくは目覚めた。お母さんが荷物の整理をしている。
「よく寝てたわね。疲れたんでしょう」
いつの間にか寝てしまったのだ。では化け猫は夢だったのか。夢にしてはリアルで恐ろしすぎだ。
お母さんは背を向けてダンボール箱を整理している。
「ねえ、そこの洋服クローゼットに仕舞って」とお母さんに頼まれた。
ぼくは起き上がって洋服を手に「これを仕舞えばいいの」と訊いた。お母さんは顔を隠すように背中を向けたまま「そうよ」と返事した。
一歩足を進めると床に真新しい引っ掻いたキズを発見して足が竦んでしまった。
これはぼくがスパイクでつけたキズだ。夢じゃなかったんだ。
「どうしたの?」
相変わらずお母さんは顔を見せない。
「お母さん、こっち向いて」
「えっ」
片付けをしていたお母さんの手が止まった。
ゆっくりお母さんが振り向いた。
その顔は喧嘩のあとの無数のキズがあり所々血が出ている。
(終わりだ、もうダメだ)
頭の中で声がした。
(完)
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