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(5)
その時、バタンと玄関が開いた。
お母さんだ! 助けに現れたんだ。
「たすけて!」
思いっきり叫んだ。
お母さんは腰に手を当てて必死にすがるぼくを見下ろしている。
「手の焼ける子だね 早く入るんだよ!」
目を釣り上げたお母さんがぼくをクローゼットへ押し込もうとする。お母さんの顔は口が耳まで裂け大きな牙が生えている。これはお母さんなんかじゃない。化け猫だ。
ぼくはスパイクを強く握りしめ化け猫の顔へ投げつけた。
「グギヤャー」恐ろしい声で化け猫がのけぞった。
(逃げろ、逃げるんだ)
首だけのお父さんが必死に訴える。
「うるさい」
化け猫がサッカーボールのようにお父さんを蹴った。お父さんが天井から壁に跳ね返って床に落ちてコロコロと転がった。ちょうど化け猫の足元で止まった。
再び「グギヤャー」と悲鳴が上がった。お父さんが化け猫の足に噛みついた。
お父さんと化け猫が戦っている間に逃げなければ。ぼくがリビングと廊下の間の扉に手が掛かった時、足元にコロコロとお父さんのクビが転がって来た。血だらけで意識がない。
化け猫が「ハーハー」と息を切らせてぼくに向かってくる。
もうダメだ。
その時、リビングの開いているサッシから黒ネコが化け猫に飛び掛かった。さっきの猫だ。いつの間にか外の廊下からベランダに回り込んでいたんだ。
「グッギヤャー」化け猫が恐ろしい声を発して背中の黒ネコを振り落とそうともがく。床を転がりどうにか黒ネコを振り払った。
リビングの中央で二匹がにらみ合う。化け猫が牙を剥き出して黒ネコの周りを回り始めた。
一歩踏み込んで「ヴググー」恐ろしい声で黒ネコを威嚇する。
「ギギニヤャー」黒ネコも毛を逆立て尻尾をピーンとまっすぐに立てている。いつでも飛び掛かれる態勢だ。
二匹が同時に飛び掛かった。
ぼくはスーッと意識が無くなった。
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