炭鉱のカナリア

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 ホテル高層階のレストランの窓の外には美しい夜景が広がっていた。  先に席について待っていた千明は、渋滞のせいで少し遅れた俺を咎めることもなく「お仕事お疲れ様」と微笑んでくれた。  この天使の様な笑顔にケチをつけるだなんて、あの女にもっと文句を言ってやりたくなる。  千明も今日は特別な日だと感じているのか、真紅の唇に胸元の大きく開いたワンピースが妙に艶かしい。  豊満な胸の谷間には今まで見たことのない大きなダイヤのネックレスが飾られていた。  俺の視線に気がついたのか、千明は頬を赤らめ照れながら口を開く。 「これ?おばあちゃんの形見なの。大切な日にはこれをつけなさいって、くれたんだ。……どう?似合うかな?」 「あぁ、すごく似合ってるよ」  俺はネックレスよりも胸に目がいってしまい、生唾を飲んでワインをソムリエに注文した。  そして、他愛もない世間話に色を添える数々の料理に舌鼓を打ちながら楽しい時間を過ごす。  幸福な時間にはワインが必要だなんて言葉が思わず浮かんでくるくらい、今夜はワインが進む。  メインディッシュを終えると、事前の打ち合わせ通りデザートと共に結婚指輪が運ばれてくる。  ケースを開いてプロポーズの言葉を伝えると、千明は大粒の涙を浮かべて静かに頷く。  店中から送られる拍手の中、俺は千明の左薬指に指輪をはめる。  ネックレスの大粒のダイヤには負けるが、思った通り千明の白く細い指によく似合う。  アルコールのせいか、起業をしてから今までの苦労がまるで走馬灯の様に浮かんで不意に涙が滲むと、千明はハンカチを取り出してそっと俺の涙を拭ってくれた。  下卑た誰かがキスコールを始めると、自然とレストラン中に拍手とキスの言葉が溢れる。  千明は恥ずかしそうにしていたがまんざらでもなさそうだったので、俺は千明の真紅の唇にそっと口づけをした。  甘い葡萄の香りと柔らかな感触に幸福の絶頂を迎えた気分だ。  だが、その時カナリアの鳴き声が聞こえた。  今までにない鳴き声に嫌な予感がして、唇を離して当たりを見渡すと、レストランの入り口に宮本が立っていた。    
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