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宮本は何か思い詰めた様な顔をしてハンドバックに手をかけ何かを取り出そうとしている。
(まさか……刃物……!?)
カナリアは懸命に鳴き続けている。
つい先ほどテレビのニュースになっていた愛憎の縺れで女に殺された男の事件がふと頭をよぎる。
まさかそれが自分の身に降りかかるとは。
まるで正気と思えない表情を浮かべながら、宮本はゆっくりと俺たちに近づいてくる。
スタッフもおかしいと思い出したのか、顔を見合わせている。
「柏木さん!その女から離れてください!!」
宮本は今までに聞いたこともない声で叫ぶ。
そのひび割れた声はレストラン中に響き渡り、千明は怯えきっているのか蒼い顔で俺を見つめている。
もう充電も僅かだろうに、カナリアは懸命に鳴き続けている。
「だ、誰かその女を捕まえてくれ!そいつはストーカーなんだ!」
スタッフの通報で駆けつけた警備員がタイミングを測って宮本を後ろから押さえつける。
「離して!離してください!柏木さん!その女はダメ!」
宮本は髪を振り乱し狂った様に叫びながら暴れている。
警備員に連れられながらも泣きながら俺の名前を叫び続ける宮本に背筋がぞっとする。
もし少しでもタイミングが悪ければ、きっと刃物で刺されていたに違いない。
俺だけならまだしも、最悪の場合千明まで。
だが、宮本はきっと警察が逮捕してくれるし、これで一安心だ。
スマートウォッチの画面は暗くなり、いつの間にかカナリアは鳴くのをやめていた。
俺の胸の中で震える千明の肩をそっと抱きしめながら、俺たちはレストランに謝罪をして俺の部屋へと向かった。
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