23人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
誰かを待っているかの様に装ってガス燈の下でスマホを取り出す。
(そうだ、どうぶつ占いだ)
今時動物占いなんて失笑ものだったが、例え創作だとしても投稿主のあげた話はやけにリアルで、翌日も仕事だというのにベッドに入ってから気が付けばダラダラと最後までその方法を読んでしまったのだった。
(まずは、ガス燈を背にして目を瞑って……)
目を瞑ると日中の上司の阿呆面が目に浮かんできて動悸がしたが、耳から入る喧騒は視界を閉ざせば不思議とそれほど気にならなくなってきた。
息を止めるとまるで世界と隔絶された様に感じる。
本当に馬鹿みたいな話だが、いつも選択を間違えてしまう俺は占い師の言葉でも聞いてみようかと思い、足を踏み出した。
確か誰ともぶつかってはならないと書いてあった。
金曜夜のこの時間、目を開けて歩いていても誰かとぶつかるのなんて当たり前なのに、ましてや目を瞑って歩くだなんて無理に決まってる。
そう思いながら一歩ずつ一歩ずつ足を進める。
(……ぶつからない)
まるで周りに誰もいないかの様で薄気味悪いがまずは十五歩歩き切った。
そして左に曲がって十五歩。
足を踏み出すたびに心臓が高鳴っていく。
また左に曲がって十五歩。
首筋に嫌な汗が滲んでいく。
そして三度目の角を左に曲がって十五歩。
まだ目を開ければ、息をすれば引き返せる。
こんなことがあるのか。
誰ともぶつからなかったばかりか、三度目の角を曲がったあたりから何も音がしなくなった。
永遠の様に感じた一分間が終わりゆっくりと瞼を開けると、目の前にガス燈が二本揺れている。
そしてその向こうには若い女が立っていた。
黒く長い髪は絹の様にさらさらと揺れていて、人形の様に整った白い顔に真紅の口紅が塗られている。
それよりも何よりも、さっきまで五月蝿いくらいに賑わっていた構内が水を打ったかの様に静まり返っていて、人の姿はどこにも見えなかった。
何かいけないことをしてしまったような感覚に猛烈に襲われ、冷や汗がじわりとシャツの下を伝う。
あまりの出来事に口を開くことさえできずにいると、目の前の女の血の様に赤い唇がにこりと歪んだ。
最初のコメントを投稿しよう!