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「でしたら! ……僕に、何も言わずにいなくなろうとしないでください。……お願いします」
「……クリストファー、さま」
何故、それがバレているのだろうか。そう思い、セイディが目をぱちぱちと瞬かせていれば、クリストファーは「セイディさんは、そういう人ですから」と続けていた。そういう人。それはいったい、どういう意味だ。そんなことをセイディが考えていれば、クリストファーはセイディとしっかりと視線を合わせる。その目には、強い意志が宿っているようにも見えた。
「僕は、貴女が好きです。来た当初から、ずっと好きでした」
「……それ、は」
つい先日、同じような話をルディから聞いた。だから、それに関しては知っている。が、実際本人から言われるのと人伝手に聞くのとでは、また別の意味でいろいろと違う。そう考え、セイディは片手を胸の前に移動させ、握る。自らは、好かれるような人じゃない。だって、好かれるような人だったら、捨てられたりしない。そんな弱気な感情が、一瞬だけ心を支配した。
「僕は警戒心が強い……らしい、です。だから、あんな態度になってしまった。でも、誰よりも貴女のことが好きです。……貴方が居なくなるなんて、考えたくない」
「……わた、しは」
「絶対に居なくならないって、約束してくださいますか?」
それは、無理だった。だから、セイディは視線を斜め下に向け、「……すみません」ということしか出来ない。クリストファーのことも、オーティスのことも、ルディのことも。嫌いではない。むしろ、好きな方だろう。それでも、それだけは約束できない。ジャレッドや元家族に見つかれば、自らはさっさとこの場を立ち去るつもりだ。それは、もう決めてしまっている。その決意は揺らがない。
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