43.(幕間)聖女リサが思うこと

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43.(幕間)聖女リサが思うこと

 異世界に召喚された。特に死んだ記憶もないけど、きっと私はトラックに轢かれた。前に読んだ漫画もそうだったから。  教会の庇護を受け、王子様と出会う。そこで王太子の名を聞いて、記憶が擽られた。エックハルト? アリッサム国? 聞いたことがある。記憶を探るまでもない。私が大好きな乙女ゲーム「精霊の剣の聖女」だった。  ストーリーや攻略対象の分岐も含め、ほとんどは覚えている。隣国の魔女を倒しに行くのが私の役割だった。戦いなんて怖いけど、精霊の剣があれば絶対に勝てる。そのための分岐を間違わないようにしなくちゃ。  乙女ゲームの特徴として、攻略対象は複数人いる。それぞれに恋を邪魔する悪役令嬢も付き物だった。王侯貴族だから、幼い頃からの婚約者がいるのが当たり前。王太子、騎士団長の息子、宰相の嫡子、未来の枢機卿、公爵家の次期当主。攻略対象はこの5人かな。  お金や地位で選ぶなら、未来の王妃がいい? でも顔だけなら公爵家の若様が一番好み。筋肉好きなら騎士団長の息子だけど、私は汗臭いのが嫌。宰相の嫡子も優しいけど、少し堅物なのが残念かな。  未来の枢機卿は、聖女として崇められるのは気分よさそうだけど。教会の戒律が厳しくて面倒臭い。現代っ子にこんな規律無理、だって校則より厳しいんだもん。  いろいろ迷って王太子を選んだ。でも逆ハー展開があると、隣国の魔女と戦う時に有利だから、全員に気を持たせる。ゲームの強制力なのか、全員が私に惚れるの凄くない?  基本的に美形ばっかりだし、声もCVの人気声優だから気分は最高だった。王太子を落とすなら、悪役令嬢は婚約者の公爵令嬢か。茶髪に緑の目って、何か地味だな。着飾ったら絶対に私の方が美人だと思う。高いドレスを着てると、それだけで綺麗に見えるもん。  擦り寄って胸を腕に押し付け、虐められたと涙ぐむだけでいい。好感度を上げる作業は、思ったより簡単だった。ちょろ過ぎる。本当に大丈夫かと不安になるくらい簡単に、誰もが私に夢中になった。  断罪と婚約破棄が行われたあの夜まで、すべてが順調だったのに。ややこしい名前の公爵令嬢は、王太子に惚れていなかった。要らないとばかりに呆れた口調で突き放す。魔女の国か分からないけど、物語に出てこなかったモブが邪魔をして、悪役令嬢を連れ去った。  呆然と見送ってしまい、口を挟むこともなく中途半端に終わる。お陰で周囲の貴族の目が冷たい。騒ぎを起こしたと他国の貴族は睨むし、せっかく着飾ったのにパーティーも終わっちゃった。  全部、悪役令嬢とモブ王女のせいよ! 絶対にやっつけてやるんだから。後で泣いて謝っても許してやんない! 国王が宣言したから、連れ戻して側妃にするみたい。でも正妃は私、聖女である私よ。  そうだ! 面倒な仕事や外交を全部押し付けて、奴隷としてこき使ってあげる。たまになら王太子を貸してあげてもいいかな。きっと涙を流して喜ぶんじゃない? 出産は痛くて危険だと聞くし、跡取りもあの女に産ませればいいじゃん。私ったら優しい。  自画自賛なのを承知で、大使館へ向かう国王や王太子を見送った。さあ、彼らがいない間に誰と仲良くなろうかなぁ。見回した中で目が合ったのは、一番好みの顔をした公爵家のイケメンだった。どうせ処女じゃないんだし、つまみ食いしてもバレないよ。笑顔で彼に手を伸ばした。
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