黒歴史1・5 そして奴はストーカーに?事件。

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黒歴史1・5 そして奴はストーカーに?事件。  20220620  西の茶店 彼氏1号は去る間際まで、私に迷惑をかけ続けた。 「出ていけー!!」 とブチ切れたにもかかわらず、「明日出ていく」、「いや、明後日まで待ってくれ」、「来週には必ず・・・」と居座り続けたのだ。 私は仕事をしているので、出ていくまでにらみ合いをしていられるほど暇ではない。 そうすると恐ろしいことに、別れた男が同じ家にいるという、奇妙な日常が始まるのだ。 一言も言葉を交わすことなく、視界に入れたくもないが、視界に入ってくる不愉快な状態。 出てくる言葉は「出ていけ」、「いや、もうちょっと待ってくれ」、「何が待てやねん、今すぐ出て行け!!」、「薄情やな!!」、「鬼で悪魔で鬼畜で心のないロボットやからのう!!」と罵り合いが始まる。 すると、突然ぐらりとマンションが揺れた。地震だ。 テーブルの上にあったラーメンのカップが揺れに合わせてスープがゆらゆら揺れて、こぼれそうになっていた。 「ほたる、おいで!」 奴と目は合ったものの、ここで「怖い」なんて言おうものなら「大丈夫!」とか言って抱きしめられて別れ話ごと流されてしまうに決まっている。 私は飼っていたウエストハイランドホワイトテリアの「ほたる」を呼び、抱き上げた。そして食器棚が倒れてこないようにドスンと身体をもたれさせた。 「こっちくんなよ!」 奴をテーブルを挟んで威嚇して、睨みつけた。 地震はゆらゆらと揺れ続けたが、特に被害もなく収まった。 その数日後。 育英会に返還しなければならない金をしこたま使いこんでいた彼氏1号のせいで、まったく返還できていなかった数年間。ついに親に育英から連絡が行ってしまった。 そしてその連絡が私の方へ来てしまい、奴の所業がバレた。 そして奴が7年もの間無職で借金まみれだったこと、私の育英会の返還金まで使い込んでいたこと、毎月の給料まで手を出してることを説明すると、両親と姉がブチ切れた。当然だろう。 その日、奴をファミレスへと呼びだした。そこには私の母、姉、姉の知り合いの刑事が二人、私がいた。 やって来た奴はビビりまくっていた。逃げられないように座った後、刑事二人が後ろに着いた奴は小さくなっていた。 「もうわかれてるんやろう?君が今やっていることは、ストーカーになるよ?ドア一発殴ってもしょっぴけるからね?」 「あんたうちの妹になに迷惑かけてくれてんの?お金使いこんでるってどういうこと?」 「前の家でも通帳から勝手にお金抜いてたよねえ?まだ仕事してへんの?毎日何してんの?」 私はあえて何も言わんかった。みんな言いたいことは言ってくれていた。 「すいませんでした。今すぐ出ていきます・・・」 頭をうなだれて、言い訳すらできず、奴は一言で降参した。 その後全員で私名義のマンションへ行き、奴が泣きながらスポーツバッグに身の回りのものを詰め込む作業を見守った。 後のものは段ボールに詰めといてやるから、とりあえず出て行け、と。 皆が見ている中で、奴は「申し訳ありませんでした」と土下座をして謝った。 何もかも遅い。土下座などされても金は返ってこない。 冷めた目で見降ろしながら、心の中で、「クソが」と思った。 そして奴は独りでエレベーターに乗り込み、去っていった。 「気を落とさんでね。これ、よかったら食べて。明日、誕生日って聞いたから・・・」 刑事の一人が、ケーキ屋さんの箱を差し出してくれた。 そうや。私は明日、誕生日やった。なんて優しい刑事さんなんやろう・・・。 「近づかないように、この辺巡回するように言っとくから」 そう言ってくれるもう一人の刑事さんにもお礼を言って、私は独りでマンションに戻った。 「・・・おわったあああ!!」 出てきたのは、歓喜の雄叫びだった。 13年、魔の13年がやっと終わったのだ。クソみたいな黒歴史。何ひとついいことがなかった13年。 残ったのは奴が残したカードローンの数百万の借金だけ。それでも、それ以上増えることはない。 その日は刑事さんがくれたケーキを3つ食べ、風呂に入ったら鼻歌を歌っている自分に驚き、パソコンのHP「西の茶店」でいいことがあったと報告し、ご機嫌でワインを飲んでいると「ケータイの充電器を忘れたので明日取りに行きます」と奴からメールが届き、ひっくり返りそうになった。 そしてそこから数日は「ほたるに会いたい」とメールが来て、私のシフトをメモっていたのか毎日のようにマンションのエントランス前にバイクを停めて待ち伏せし、奴は完全なるストーカーに変貌した。 「刑事に言うぞ!!」という私のメールに逆上した奴は、「もう会わないって言うために会いに来た」という本末転倒な行動を起こすパニック状態に陥った。 更には「もうメールも送らへんようにメルアドも消した!」というメールが届いたので「やれやれ」と思ったら、翌日には「やっぱりメール送らへんなんて言ってごめん」っていうメールが届いた。もう意味不明。 覚えやすいメルアドにしてたから、消したとしてもまた登録したんだろう。あんた立派なストーカーやで。拒否したところで、メルアドを変えて送ってくるのは目に見えている。 13年中7年どっぷり私に依存して生きてきたから、私がいなくなったら、どうしていいかもわからんくなったんやろね。 自分がわからなくなるほど見失うって、何して生きてたん? ・・・クソが。 私の中に芽生えた、数えきれない、殺意。 了。
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