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episode2 第三十二話
自宅は借りているアパートの一室に戻ってくる。
アパートと言っても、海外のこじゃれたホテルのような造りで、外観はレンガ造り、窓からは夜風が拭いている。部屋の中の左端には簡素な机と椅子。その上に最新式のノートパソコンにスマートフォンが置かれ、真ん中には少し大きめのテレビに、それに向かい合うぼろいソファ。左には使い込まれ、ギシギシいう少し大きめのベッド。なお、視界の外にはキッチンもある。
バン!
半ば蹴破るような形で部屋に入ると電気をつけ、今なお、スー、スーと寝息を立てるタマモをベッドに放り込む。で、毛布をかけてやった。
「スー、スー、スー……」
「ったく、いい気なもんだぜ」
キツヒコはそう言うと、テレビの前のソファに着替えもせずに、白いシャツ、軍用ズボンと軍用ブーツの姿のまま寝ころんだ。
さて、明日からどうしようか。どうやって生計を立てようか……まぁ、いいや。明日の事は明日考えよう……
……
…
……
「ーーヒコ、キツヒコ、起きてください、キツヒコ」
「ん?」
朝、か……
人口太陽の光が窓から降り注いでいる。でーー
目の前に“裸エプロン”姿のタマモがしゃがみこみ、キツヒコの顔を満面の笑顔で覗き込んでいた。
「「……」」
「起きましたか? キツヒコ」
「うおぁああああああ⁉」
思わず、飛び起きるキツヒコ。その様子を笑顔を張り付け、見つめるタマモ。
「な、な、え、お前、なんて格好してんだ⁉」
「え、嫌いですか? この格好?」
「い、いやいや、大好き! このシチュエーション男なら大好き‼ じゃなくて‼」
「そんな事より、朝ごはんです。もう、できてますから、一緒に食べましょう‼」
「へ、は、はぁ⁉ おまえ、いつの間に‼」
「気にしないでください。私はキツヒコのお嫁さん! なんですから‼ あ、その前に、おはようのチューしましょう‼」
「え、えぇっ⁉」
「良いじゃないですか。私達、夫婦なんですよ? それくらい普通です!」
「え、ちょっとまーー」
タマモはキツヒコに駆け寄り、抱き着き、頭を後ろから固定し、思い切り、キスをするのとーー
「ーーキツヒコー、一緒に朝食食べに行こーー」
スーツ姿のイヒカがガチャリとドアを開け、キツヒコの家に入室、キツヒコとタマモのキスシーンを目撃したのはほぼ同時だった。
「……」
無理矢理の長いキス。唇を無理やり重ねる二人がイヒカに気づく。
ひっ……
キツヒコの血の気が軽く引いた。
タマモは何かよくわかんない他人が入ってきたな、位な感じ。
当の、イヒカは両目を限界まで見開いたまま彫刻のように固まっていた。
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