episode2 第三十六話

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episode2 第三十六話

カチャカチャ……  食器を鳴らす音が響く。  それはイヒカもそうで、タマモを睨みながら食事をしている。  当のタマモは行儀よくしかし、キツヒコの隣で、食事をしていた。で、  「はい、あ~ん」  キツヒコの顔に、料理を乗せた食器をキツヒコの口に運ぼうとしていた。  「いいよ、一人で食べるから……」  キツヒコを鬱陶し気に食べつつ、タマモの料理を遠ざけようとする。しかし、タマモは言うことを聞いてくれなかった。  「そんな事言わないでください! 是非是非食べて‼ だって私はーー」  「ーー妻、何でしょ?」  ここでイヒカが横槍を入れた。勿論、イライラして。  「妻妻って、なんなのこいつ、本当に」  「だって、本当の事ですし。ねぇ~?」  イヒカが笑顔でキツヒコの顔を覗き込む。  「……」  無論、キツヒコは無言で、いや、ばつが悪そうな表情をもって答えるしかなかった。  「……で、そこのタマモをどうする訳? 記憶が無いんでしょ?」  イヒカが聞く。それはそうだった。記憶がない。これは困りごとだった。  「……そこなんだよな。一体、こいつが何者かわからない以上、どうすればいいかわかんねぇし」  「……タマモ、アンタ、ホントに何も覚えていないの?」  イヒカの問いにタマモは「はい」とだけ答えた。  「覚えていないのに、キツヒコの嫁である、ということだけはハッキリしてる……これ、なんか、変じゃない?」  「変じゃありません。タマモはキツヒコのお嫁ーー」  「ーーあー、はいはい、わかったから、わかったから」  イヒカが冷たくあしらう。  「ねぇ、アンタ、私以外に心当たりはある?」  「はぁ? 心当たりも何も、ガキの頃から四六時中一緒にいたお前以外にいねぇよ」  「そんな事言って、隠れて誰かと会ってたんでしょ?」  「だから、知らねぇって‼ 大体、こいつを見てみろよ! どう見ても俺らより年下じゃねぇかよ‼ 明らかにおかしいって‼」  「あのぉ……二人はどういう関係なんですか?」  タマモの唐突な問いにキツヒコはやや恥ずかしそうに答えた。  「幼馴染だよ。ガキの頃からの……」  「お、さなな、じみ…? 幼馴染って、何ですか?」  タマモはどうしてか更に食いついてきた。  「幼馴染ってのはな、子供の頃から一緒に育ってきた男女?の事で、その、なんていうか……」  なんて説明したらいいかわからないキツヒコに、今度は、  「か、家族よ、家族! 私達、家族なの‼ 一緒にご飯食べたり、遊んだり、勉強したり、お風呂入ったりする家族なの‼」  どういう意図があってか、イヒカがそれに被せてきた。  「か、ぞく……家族」  その発言にタマモが呟く。  「バ、馬鹿! いつの頃の話してんだよ‼ ってか、そんな事、子供に話すなよ‼」  「ホントの事じゃない!」
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