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episode2 第三十七話
すると、
「家族って、一緒にいる人達の事なんですね! 一緒にご飯食べたり、遊んだり、勉強したり、お風呂入ったり、そういうすることをする人達の事を“家族”って言うんですね⁉」
まるで、新しい知識を得た子供のようにはしゃいだ。
「「え……ま、まぁ……」」
更に言葉を濁す二人。だが、同時に、奇妙な感覚に襲われる。
この娘、“家族”という概念を知らない……? 一体、どういうことだ? と。
明らかに普通じゃないことだというのは瞬時にわかってしまった。
ばつが悪そうな表情が一気に怪訝なものになろうとしたその時だった。
「じゃあ、タマモもキツヒコとイヒカの“家族”になります‼」
「「へ?」」
いきなり、話の腰が折れる発言だった。
「だって、“家族”って楽しそうじゃないですか‼ タマモもそこに混ざりたいです‼」
「「え、え、え……」」
「私、家族のーーあれ、“家族”って……あれ? タマモはキツヒコのお嫁さんで、キツヒコはタマモの旦那様だから……あ! もう、“家族”でした‼ てへぺろ♪」
二人はずっこけ、顔が引きつる。
「なに、何なの、こいつ、マジでなんなのよ……」
「すげぇ、調子狂うな……」
イヒカとキツヒコの呟きももっともだ。
「そうだ、キツヒコ! お腹いっぱいになりましたか⁉」
「え、まぁ、いや、まぁ……」
ロクに食べていないがそう言うしかなかった。
「じゃあ、早速、お仕事に行きましょう‼」
「え……?」
「そうです! だって、お婿さんはお仕事に行かなきゃなりません‼」
その発言を聞いた途端、キツヒコの顔がやや険しいものになった。
「仕事……しまったぁぁぁ! 俺、また無職に戻ったんだったぁぁぁ‼」
それを聞いた途端、イヒカが呆れ顔になる。
「呆れた。まだ仕事決めてなかったんだーーってー戻った? クビになったってこと⁉」
「……うん」
「……あんた、何やったの?」
「いや……上司と喧嘩して三行半(みくだりはん)? 叩きつけてきた」
「はぁぁぁ⁉ あんた、何、考えてんの⁉ あんた、前科者なのよ⁉ そんなヤツ雇ってくれる所ってだけでもありがたいのに、そこを喧嘩して辞めるなんて馬鹿じゃないの⁉」
「しょ、しょうがねぇだろ! あいつ、タマモを見捨てろって言ったんだぜ⁉ あんな上司(ヤツ)、こっちから願い下げだ‼」
「……そんな事言ったんだ? あんたんとこの上司」
「ああ」
喧嘩から嫌な沈黙になる。
数秒の後、イヒカは「はぁ……」とため息をついた。
「仕方ないわね。私、仕事先でバイトか契約の仕事無いか調べてみる。その間にキツヒコ、アンタ、ツテでもハローワークでも何でも行って仕事見つけてきなさい。いいわね?」
肩を落としながらイヒカは言った。
「じゃあ、タマモは二人の為に家事をします! ご飯も掃除も得意です‼」
今度はタマモが元気いっぱいに手を上げた。
そして、二人の女性は男性に視線を集中させる。
それに対し、今度はキツヒコが応える番だった。
「わーったよ。しばらくお世話になります……」
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