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ノキオはしみじみ言った。
「兄の存在はいいぞ」
一人っ子のヒサヤは、兄の存在がどういいのかを詳しく聞いてみたくなった。
「どうして? 目の上のたんこぶみたいなものじゃないの?」
ノキオははにかんだ笑顔で答えた。
「兄が結婚してみろ。その嫁は義理の姉になるから、姉属性が付く。しかも、だ。年下であったら妹属性も付く……」
「え? そうなの? なんか違うような……」
「そうなんだよ。そう思え」
ヒサヤは膝を打ち、驚いた。
「姉と妹の全属性持ち! 完璧じゃないか!」
「そうだろう。それは兄嫁から見ても同じこと。義理の弟が年上だったら、兄属性と弟属性が付くってもんだ」
「あ、甘えられちゃったりするのかな? うはあ」
「甘えてもいいかもしれない。はふう」
二人は熱いため息を吐いた。
「ところが、だ」
ノキオは神妙な面持ちで言った。
「兄は結婚するつもりがない。どうやら、あいつ、姉と妹の全属性の刻印を、弟の俺の嫁に刻み込みたいらしい」
「それはちょっと自分勝手だのお」
「だろう? お前ならわかってくれると思ってたよ。おっと」
ノキオは閉じかけた鞄から小説本を落とした。その拍子に、裏返していた本のカバーがずれた。
ノキオは慌てて本のカバーを元に戻したが、ヒサヤは素早くその本のタイトルを読み取った。読み取ってしまった。『兄嫁と同級生のママ』だった。見てはいけなかった。見なかったことにした。
「じゃ、じゃあな」
「お、おう」
ヒサヤはそのままその場に座っていたら、ノキオの兄のノルオがやって来た。
「よお。ヒサヤくんじゃないか。ひなたぼっこかい?」
「え、ええ。そんなところです」
あんたの弟の性癖にドン引きしていたところですとは言えなかった。
ノルオは言った。
「ノキオの奴に彼女できたとか聞いてない? 好きな子、いねーのかな。できれば俺よりも年上で。おっと」
ノルオは手にしていた小説本を落とした。その拍子に、裏返していた本のカバーがずれた。
ノルオは慌てて本を拾い、そのカバーを元に戻したが、ヒサヤは素早くその本のタイトルを読み取った。読み取ってしまった。『弟妻、美熟女。』だった。決して見てはいけなかった。頭を抱えて見なかったことにした。
「じゃあ、じゃあね」
「あ、はい」
ヒサヤは気づいた。
あの兄弟は、姉と妹属性に、もうひとつ、人妻属性を必要としている。
「きょきょきょ……」
もう言葉は出なかった。
ヒサヤは頭の中で叫んだ。
兄弟そろって、変態だー。
<終わり>
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