出勤日の朝食

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「あっ。蓮、失敗した目玉焼き自分のにしたでしょ?」  よく見ると蓮の目玉焼きは黄身が破れて、潰れていた。一方手元にある目玉焼きは綺麗に黄身と白身が分かれている。綺麗なドーム状の黄身が食欲を誘う。 「目玉焼きなんて殆ど焼いたことないから失敗した。失敗作を人に食べさせられないでしょ」 「優しいねぇ、蓮は」 「逆に失敗した方を智穂に出してたら、相当嫌なヤツでしょ」 「確かに」  二人して笑い、お互いに一口ずつ目玉焼きを口に運んだ。 「確かに、マヨネーズも合う」 「でしょ? タルタルソースだってマヨネーズに玉子が混ぜてあって、あんなに美味しいんだから、目玉焼きにも合って当然なのよ」 「なるほどね。それは理屈が通っている」  智穂がみそ汁に口をつける。具は豆腐とわかめのシンプルなみそ汁だった。出汁の香りと優しい味噌の味が、起き抜けの身体に沁み渡る。 「はぁ~美味しい……。人が作ったおみそ汁飲んだの久しぶり」 「――ホント、作り甲斐があるよ」  ぽつり、と蓮が呟いたが智穂は気がつかなかった。  作家になり、一人暮らしを始めて数年。自分で料理をすることすら稀で、みそ汁など自分で作ることすらなかった。  あったとしても、インスタントのみそ汁。その味に決して不満はなかったが、改めて人がつくったみそ汁を飲むと胸に込み上げてくるものがある。  嬉しそうに、心底嬉しそうに朝食を食べる智穂を、蓮は箸を止めて見入っていた。 「ん? 食べないの?」 「あ、ああ。そういえば、聞いておきたいことがあるんだけど」 「聞きたいこと?」 「そう。――納豆って食べれるのかなって」 「食べれるけど……なんで?」 「朝ごはんに出そうかどうか悩んで、結局買わなかった」 「ああ、そういうこと。大丈夫、食べれるよ。なんなら好きなくらい」 「そっか。了解。今日買って帰る」  蓮はテーブルに置いてあったスマートフォンを手に取り、メモアプリに入力する。メモには今日仕事帰りに買い足すものが入力されている。その中に『納豆』と新たな一行が加えられた。 「なんかさ、不思議だよね」
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