番外編 勇者と聖女とお泊り会

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 そして、2日目。今日は海岸で陸釣りをしている。  昼は海岸で収穫物を焼いて食べて、そのあとボート遊びをする予定だ。  けど、飽きっぽい俺は早々に釣りを諦めて、浅瀬で貝を獲ったりしていた。  殿下達の周りには、いつも大勢の護衛と付き人がいる。  それにも慣れないから、俺は一人で茂みの奥に入ってみた。  木の実を探したり小鳥を見つけたり、うろうろしていたら茂みの奥で小さな鳴き声がするのに気づいた。  そこにいたのは仔猫だった。  虎模様のミケ猫で脚が6本あるけれど、すごく可愛い。  震えていたので、抱き上げてみた。  両手に余るくらいの小ささだ。まだ生まれたてなのかも。 「かーわいいなぁ! お前、お母さんどこだよ。はぐれたのか?」  もしかしたら、寒いのかも知れない。ここ、木が生い茂って日陰だから。  日向に連れ出したら、親が心配するかな。  そのとき、後ろでバキッと枝を踏みしめる音がした。  軽い音じゃない。なにか重いものが大きな枝を踏んだ音だ。  振り返ると、唸り声を上げる大型の虎もどきが、ゆっくりとこちらを威嚇して近づいていた。 「ひぃぃっ」  つい手にした仔猫に力を込める。  ミィとか細く泣いた仔猫に応えるように、虎もどきが咆哮を上げた。  おおおお母さんだ、この仔の。  ごごごめん、盗るつもりはないんだよ。 「か、返すから。ごめん」  真っ赤な口から長い牙が覗いてる。  すごく長過ぎませんかね? 口からはみ出てるよ。  俺は仔猫、もとい仔虎を地面に降ろした。でも、ミィミィ鳴くばかりで親の元へ行こうとしない。  母虎の怒りのオーラが募ってくる。  あれ?! おおお俺のせい?  逃げないといけないのに、足が竦んで動かない。  たたた助けて、オーナー!  こういうとき、もっとも頼りにならないだろう人が頭に浮かんだ。 「ぽめ太くん、退いて!」  横から灯さんの声がして、虎の前で水が弾けた。  灯さんが飛び込んできて、俺を庇うように前に立つ。その灯さんの足もカタカタ震えてた。 「あああ灯さん!」 「ぽ、ぽめ太くんが一人で茂みに入っていったから」  追いかけてきてくれたんだ。 「一人で、うろうろするのは、危ないよ」  仰るとおりです!  でも、昨日散策したときは安全そうだったから、調子に乗ってしまったんだ。  虎もどきは、顔にかかった水をぶるんと一振りで払った。  豪商を溺れさせた、あのときみたいな大きな力は出ないみたいだ。 「逃げ、逃げよ……ぽめ太くん」 「う、うん」  灯さんがぐいぐい俺を押すのに、俺の足は全く動かない。  虎もどきの6つ足がぐっと縮められ、飛びかかるような態勢を作った。
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