番外編 勇者と聖女とお泊り会

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 ギュッと目を閉じたとき。 「灯さん! ぽめ太さん!」  北小路くんの声がしたと思ったら、ギャンッと虎もどきが鳴き声を上げた。  俺達と虎もどきの中間点に立った北小路くんが、剣を構える。  北小路くんが、虎もどきの顔辺りを払いながら飛び込んできてくれたんだ。  虎もどきは北小路くんを敵と定めたようだ。  低い唸り声を上げて、背を低くして臨戦態勢だ。  咆哮を上げて飛びかかってくる虎もどきを、北小路くんが一撃で叩き伏せた。  瞬きする間もない、一瞬の出来事だった。  鞘に剣をしまった北小路くんが「怪我は?」と聞きながら、俺達に歩み寄ってくる。 「お二人の姿が見えなくなって。なんか、変な魔力を感じたので気になって」  北小路くんのすぐあとに殿下が。  少し遅れて護衛の人達が、茂みをかき分けてきた。  護衛の人達ですら、北小路くんのスピードについてこれなかったんだ。  魔力が感知できるとか、魔法を纏わせて筋力を底上げできるとか、剣に魔法を纏わせたとか。  なんか、すごいことをさらっと言われた気がする。  灯さんが「僕の力って……」って呟いてたけど、本当の力が発揮されたらすごいから、灯さんも!  足元で、ミィと小さな鳴き声がした。  忘れてた! 仔虎がいたんだった! 「ききき北小路くん、お母さん虎、ここ殺しちゃった?」  ユーシス殿下達と辺りを警戒していた北小路くんが、俺に振りむく。  そのとき、俺の足元の仔虎が倒れこんだお母さん虎もどきによたよたと近寄っていこうとしていた。  どうしよう。俺のせいだ。俺が不用意に野生動物に触れたから。  お母さん虎もどきは、仔虎を取り返そうとして怒っただけなんだ。 「あぁ、殺してません、仔持ちだと分かったので。周囲に他の個体はないようです」  気絶させただけだと聞いて、俺は大きく息を吐いた。  よく見たら、母虎もどきからは血が流れていなかった。  場馴れしたような精悍な顔つきに、改めて北小路くんは勇者なんだなって思った。  
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