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01 ぽめ太は新米
蔭間茶屋の朝は遅い。
まずはベッドを整えて、ゆっくりしてから湯をもらいに行く。
お風呂にも序列順があって、新参者の俺は後だからゆっくりでいい。
といって、俺がごろごろのんびりしてる間に、同じ部屋の二人はお風呂に行ってしまっていた。
湯殿へ行くと、一人、着替えてるのが見えた。俺と同室のイシュレイだ。
ほぼ同期みたいなもんだけど、俺よりはるかに若くて女の子みたいに可愛い。
「あ~、ぽめ太やっと来た」
ぽめ太と言うのが、俺の源氏名だ。
本名は伊勢染太というんだけど、みんなにはどうも聞き取れなかったようだ。
そう。
ここは日本じゃない。ましてや、江戸時代でもない。
日本や西洋の文化が融合した、時代考証無視のカオスな異世界なんだ。
俺がこの世界に来たのは、今から5ヶ月程前に遡る。
劇的な何かがあったわけじゃない。普通に寝て起きたらここにいたんだ。
初め、祖母ちゃん家かと思った。祖母ちゃん家も昔ながらの日本家屋だったから。
俺が幼い頃に両親が離婚して、長いこと母さんと田舎の祖母ちゃん家で暮らしてきた。
いつも曾祖母ちゃんが好きな時代劇を一緒に見ていたっけ。
そのとき、扉を開けて入ってきた人がいた。
着流しっぽい着物を着て、髪が金やら赤やら派手な外人だったから面食らったんだった。
その人がここ陰間茶屋のオーナーで、以来、俺はここで働かせてもらっている。
そのオーナーから、この世界には普通に異世界から人が渡って来ると聞かされた。
俺達みたいのを「渡り人」って言うんだって。
それから、この国はアルフォガンプ王国という名前らしい。
王都では勇者召喚やら魔王討伐やらがあったそうだけど、ここは王都と反対側の海に面した地方都市だから、あんまり影響はないみたいだ。
男に体を売るってのは、今も正直抵抗ある。でも、ここを出てく方が怖い。
異世界に来て不安だったとき、最初に見たのがオーナーだったから頼りにしちゃうんだよね。雛鳥の刷り込みみたいに。
でも、俺は20歳だから、蔭間の盛りは過ぎている。客もイシュレイみたいな美少年が好きだからな。
お払い箱って言われたら、下働きとして働かせて貰えないか頼んでみるつもりだ。
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