03 ルオヴィッツ村

4/6
前へ
/65ページ
次へ
 俺は向かいのオルに体を近づけて、こっそり尋ねてみた。 「なあ、魔牛って? ここ、魔法ないんだろ?」  前に、この世界には魔力も魔法もないって聞いてたのに。  魔牛ってどういうことだ? 「魔法はない。魔力があるのは魔物。魔物が使うのが魔法」  え? 人にはないって意味?  魔力も魔物もあるんじゃん!  聞けば、足が6本ある獣は大概が魔物だそうだ。  俺達が食べてたあの6つ足の猪もどきも魔物だったんだ。普通に美味しいジビエかと思ってた。 「じ、じゃあ、魔王とかいたりする?」 「今はいない。勇者に討伐されたと聞いた」 「は!? 勇者!?」  待って! 説明が雑だよ、オル!  魔王も勇者もいるの?! 「まさか、異世界から召喚されたとか?」 「そう聞いた」  遠く離れた王都で勇者の召喚に成功し、その勇者が仲間と魔王討伐の旅に出たのがふた月前。  そして、魔王を倒して、無事、王都に帰還したらしい。  旅の間で愛を育んだのか、勇者は騎士と結婚することが決まったのだそうだ。  これ、もう、アレだろ。時期的に言って。  俺、完全に「巻き込まれ召喚」じゃん。    それなのに大筋に関わるどころか、勇者達に存在も知られてないおそれがあるってどういうこと?  まず、俺自身、なにも知らなかったし。  こんなしょぼい巻き込まれ方ってある?  隣りにいたカラウ伯父さんが、「待て待て」と口を挟んできた。  内緒話のつもりが、興奮しすぎて普通に喋っていたようだ。  まずい、俺が異世界から来たってバレたら……。 「嫁さんは、ただの『渡り人』の可能性もあるからなあ」 「は?」 「でも、この村の『渡り人』はもう亡くなってて話も聞けないしねぇ」 「え?」  ちょ、ちょっと待って。  情報多すぎて、処理が追いつかない。  渡り人ってなに?  異世界から来たって驚かれないの?  なんで、ここの人達ぐいぐい話進めるんだ。  マイペースなの、天然なの?  どうやら、この世界は、俺みたいに異世界から来る人が珍しくない世界だった。  そして、異世界から来る俺達のことを、『渡り人』と呼んでいるらしい。  異世界の豊富な知識で富をもたらすと、渡り人は、長年、国が保護してきた。  ただ、ここ十数年やたらと渡り人が来るもんで、有り難みも薄れているそうだ。  俺にとったら今でも信じられない、とんでもない状況なのに。  異世界転移が当たり前なんだな。  隠す必要も心配もいらなかった。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加