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「ねぇ麗子ちゃんまだ? 早く二人きりになりたいな」
武田の声を聞いた瞬間、圭の心は絶望で覆われた。
彼は、武田は南さんを見ちゃいない。今、奴の心にあるのは下劣な欲望だけ。
表面的には甘い求愛のような言葉を通し、そのことが嫌になる程伝わってきた。
怒りのあまり言葉が出ない。心臓を掻き毟りなくなるほど苦しい。
そして芽生えたのは「助けなきゃ」という使命感。この男の本性を知った以上、みすみす彼女を渡すわけにはいかない。
だがどうやって? 「この男は南さんの身体目当てです」と言ったとして、初対面の男の戯言を一体誰が信じる? そんなことしても、嫉妬に狂う見苦しい男にしか見えないのではないか。
そもそも圭の見立てが必ずしも当たっているとは限らない。もし奴が真剣に彼女に惚れていた場合、圭の行為はただ好きな人の幸せを邪魔するだけのものになってしまう。
武田は本気なのか、せめてそれだけでも確認せねば。
本人に聞く? そんなの、口では何とでも言えてしまう。
奴が尻尾を出すまで引き留める? いや、そんな権利はただの相談相手である圭にあるはずもない。
どうすればいい? どうすれば……。
「それじゃ、また次の雨の日に」
南さんが言う。解決策は未だ思い付かぬままで、「行かないで」の一言は喉の奥に引っかかり出てこない。
彼女の足音が武田の足音とくんずほぐれつしながら遠ざかっていく。
本当は縋りつきたいのにそうできない圭は、やはり生粋の臆病者だった。
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