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17時過ぎ、ようやく彼女は来た。
まるで別人のように重々しい足音だけで何か起きたのだと察し、あの日、なぜ嫌われてでも止めなかったのかと後悔が襲う。
「こんにちは本村さん! 南です! ねぇ、今大丈夫? ちょっと愚痴聞いてくださいよ」
無理に作った明るい声が、余計圭を悲しい気持ちにさせた。
「この前、お家デートするって言ったでしょ? あの日先輩、部屋に着いた途端私を求めてきてね、私少し怖くなって『心の準備ができてないです』って断っちゃったの。
そしたらね、先輩急によそよそしくなって、ケータイいじり出して、『用事ができた』ってすぐに帰っちゃって」
彼女の声がどんどん暗くなる。
「私のせいで気まずくしちゃったから、なんとかしなきゃって、お弁当作ってみたり、デート誘ってみたり、いろいろ頑張ったの。
……だけどね、さっき、見ちゃった。先輩、サークルの別の女の子と、手繋いで歩いてた」
最後は涙混じりの声になっていた。何と言うべきかわからず、ただ黙って頷くことしかできない。
自分がしっかりしていれば南さんがこんなに傷付くことはなかった。
彼女を傷付けたのは武田と、そして圭自身。
罪悪感に苛まれ、圭は優しい言葉を口にするのが憚られた。彼女を慰める資格なんて自分には無いのだ、と。
「あーあ! 一人で浮かれちゃってバカだね! せっかく応援してくれたのに、私男見る目無かったみたい! あはは……」
ほとんど衝動だった。圭は、とっさにレジ下に隠しておいたソレを掴む。
映画のチケット。以前彼女を誘おうと買ったものだ。
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