7月29日、大雨

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 ヒタ、ヒタという足音が聞こえた。客は全員帰ったと思っていた圭は驚き、慌てて居住まいを正す。  足音は圭の目の前で止まった。 「す、すみません。誰もいないと思って、お見苦しいところを……何か御用でしょうか?」  言った後で気付く。この足音は、一度も本を買ってくれたことのない、声も知らない常連さんだ。  一体何の用だろう? 「アンタ、損な性格だね。そんなんじゃ幸せになれないよ」  衝撃的な声だった。  キツい物言いとは対照的な、柔らかすぎる声色。それだけで、今まで出会った誰よりも優しく、繊細な人物であると確信した。  いや、そんなことより。 「女性、だったんですね」 「あら失礼ね。そんなに重そうな足音だった?」 「い、いえ!いつも男性誌コーナーにいらしたので、つい……」 「ふん、まぁいいけど」  不機嫌そうな口ぶりなのに妙に弾んだ声。不思議なギャップに、圭はどう話すべきか戸惑う。 「男性誌がお好きなんですか?」 「いや、雑誌には興味無いよ」 「え、じゃあどうしていつもあのコーナーに?」 「ああ、それはあそこが一番レジに近いから」  意味がわからず、圭は首を捻る。 「いつも見てた。アンタとあの女の子が話すとこ。アンタ、あの子に惚れてるでしょ?」  見られていたのかと、羞恥で顔が熱くなる。 「好きなくせに真面目に恋愛相談なんか乗っちゃって。やっとチャンスが来たと思ったら、今度はキューピッドの真似事。ほんと、見ててイライラしたわ」 「……本当に全部見てらしたんですね」 「そりゃ、私も雨の日のたびここに来てるんだもの。アンタはあの子に夢中で気付いてなかっただろうけど」  驚きのあまり言葉が出なかった。  確かに彼女の言う通り、南さんにばかり気を取られ彼女の来店パターンには気が付かなかった。
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