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目が見えない分、圭は他の感覚が人より発達している。
例えば触覚。
バーコードの読み込みやお札・小銭の種類判別も、優れた指先感覚で軽くこなす。
ただし会計金額だけは音声式のレジに読み上げてもらう必要があるが。
また、嗅覚。
紙とインクの匂いの微妙な差から、印刷会社や出版社を特定。そこに指から得る形状や厚みなどの情報を加え、どんな本かを予想する。
南さんの購入した本の匂いも、何度か嗅いだ覚えがあった。
「例の推理物の新作ですか?」
「はい! 『テニス探偵』シリーズの3巻です」
そして、聴覚。
「テニス探偵、今度劇場版も公開されるんですよ」
そう言った彼女の声は、楽しさの中に若干の気遣いが混じっていた。おそらく目が見えない圭に映画の話をすることに負い目を感じているのだろう。
「へえ! 映画館は音質が良いから僕も楽しめるし、観てみようかな」
「ぜひぜひ! アクションシーンもあるし、きっと音も大迫力ですよ!」
今度は純度100%の楽しげな声が聞け、圭はほっと安堵した。
人は皆、少なからず声から相手の感情や人柄を読むが、圭のソレは並の人の比ではない。
圭にとって『声』は1番の情報源。
「雨の日はサークルが休みなんで、ついここに来ちゃうんです。私、本が大好きなので」
初めて会った日。南さんの言葉は今でも鮮明に思い出せる。
底抜けに明るくて芯のある声。自分には無い強さを持った彼女に圭は憧れた。
そして何度か話すうち、徐々に憧れは恋へと変わり……。
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