6月30日、雨

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「そういえば聞いてくださいよ! 昨日のサークルの話なんですけど」  南さんの声がにわかに色を帯びる。 「武田先輩と初めてダブルスしたんです! 先輩ったら私のミスを全部カバーしてくれて、私がたまたま良いプレーすると『ナイスショット!』って褒めてくれて」  チクリ、と胸が痛む。  彼女が同じテニスサークルの武田という先輩に惚れていることは知っている。  もちろん最初は落ち込んだが、結局、彼女が幸せならそれでいいと自分に言い聞かせ、諦める道を選んだ。  それは彼女のためであり、自分のためでもあった。  目の見えない人間と一緒になれば、何かと彼女の負担は増えるだろう。圭は彼女に苦労をしてほしくなかった。  そして何より、そうなった時彼女に嫌われてしまうことが怖かった。彼女は障害が原因で人を嫌うような人ではないと思いつつも、障害者の家族の大変さは、圭自身よく知っていたから。  ならいっそ、今のまま友達のような関係でいい。  たとえ、会うたび想い人の話を聞かされることになったとしても。 「先輩と上手くいったら教えてね! お祝いしたいからさ」  圭の声に含まれる微量の嫉妬に、南さんは気が付かない。彼女が自分ほど耳が良くなくてよかった。 「優しいんですね。私も、本村さんに素敵な彼女ができるよう祈ってます!」  君が良いんだ、なんて言えるはずもなく。  圭は自身の醜さにウンザリしつつ、軽やかに去りゆく足音をただ黙って聞いていた。
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