黄昏の街の自動人形

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黄昏の街の自動人形

 蒸気をあげるむき出しになった鉄骨に、あちらこちらから何を動かしているかもたどれぬほどの大量の歯車の音がする。まるで精密時計の中にいるような、ガスに煙る機械の街。その街はいつでも夕暮れにいるようだと、いつの頃からか「黄昏の街(トワイライト)」と呼ばれていた。  これは、まだ空を飛龍が駆け、森には妖精が棲み、 人々の隣には魔法が存在していた遙か昔の話。  遠く離れた海の向こうには、くすまず澄んだ青空が広がり綺麗な音色を奏でる石細工が煌めく海があり、油を差さずとも動くしなやかな身体の「人間(ヒューマン)」や、かたや機械を用いずとも空を駆け、かたやその声だけで船を沈める「亜人(デミヒューマン)」など、この街に幽かに遺ったおとぎ話の中に出てくるような「魔法」があふれているのだという。  それに比べて黄昏の街の彼らときたら、人型にして人には非ず。機械の心臓にピストンのうごめく腕。その肌は銅で出来、身体はオイルが巡っている。  それでも彼らの胸には意志があり、心を得てこの世界に生きていた。  繰り言にも似た想像力を得た彼らは、その技術の粋を尽くして街を広げ、その魔法の街にはない機械細工を売り、魔法の街から機械の一切入らない品々を買うことを生業としていた。
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