愛されるための

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 けれど、ゆっくり顔を動かして、隣のリディと顔を見合わせた。考えていることは同じなようで、少し面白くなった。 「いいえ、ここで良いのです」 「えぇ、どこに行っても、きっと同じことだもの」  そうふたりは手に手を重ねて彼を見上げる。どこにいても、となりにこのきょうだいがいれば、何の変わりもないのだった。  そうか、と旅人は笑った。彼はこれからまた旅立つのだという。次は寒い冬の国に行くのだとか。少し楽しそうだなとは思ったので、もし戻ってくることがあるなら話を聞かせてください、と言づけておいた。旅人は柔らかく微笑んで、また来るよと出て行った。  何も出来ぬ彼らの部屋の時計がなる。休眠時間の合図だった。 「ねぇリトルトイ。なんだかちょっぴり、今日は疲れてしまったわ」 「そうですね。僕も少し、疲れてしまった気がします」  隣を見れば、同じ顔をした姉の姿。その口が「ごめんね」と言ったように見えたけれど、言葉をうまく聞けないリトルトイには意味がなく、もし聞こえていたとしても彼に後悔など無い。  それをどうにか伝えたくて、リトルトイは彼女の手を取った。彼らに残された、意志を伝えるその器官。時に文字を書き、その鉄の手を握り、隣に確かに生きているのだと理解する、そのための器官ですらある気がした、彼女の手。リディがこの「手をつなぐ」という行為をどう思っているのかは、リトルトイには分からなかった。それでも、嫌に思っていないと良いなと思った。 「こんな日に、夢を見るのかもしれないわ」
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