黄昏の街の自動人形

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 そんな街で一人暮らすのは、全長百センチ、重量三十キロの自動人形(リトルトイ)。古くは外の世界へ出荷されるための主力商品の自立型愛玩人形だった彼は、型落ちとなってこの街に残ることになった。製造工場の片隅で蒸気機関に火を入れられ、その小さな体躯で小間使いのようなことをして暮らしていた。そんな彼に名前はなく、ただ「リトルトイ」と呼ばれるだけであった。  彼に火を入れたのはこの自動人形製造工場の工場長で、たまたま工場の廃棄倉庫の片隅に埋もれていたリトルトイを見つけたのがきっかけだった。人手ならぬ「機械手」ならば多い方がいいのも確かだった。動けば儲けモノ、という考えがあったことを、彼は否定しないだろう。  そんなことをリトルトイが知っていたかは分からない。けれど彼はこの身体に蒸気(いのち)を吹き込まれたことを喜んだし、自身に刻み込まれた記憶より随分進んだ技術や世界に興味を示した。  自分の身の丈よりも大きな荷物――完成品の入った箱をよいしょと抱え、前も見えないままによたよた運ぶ。左右に揺れるたびに出来上がった人形がガタゴトと箱の中で左右に揺れる。中から転げ落ちてしまうのではないかと思えるほどだが、そんなこともなく出荷予定品の荷置き場までたどり着く。  がしゃんと音をさせてそれらを下ろせば、今日の仕事は終了だった。荷置き場には、今日出来上がった人形の箱が三十箱。 「おつかれさまだ、リトルトイ」 「おつかれさまです、工場長」  声をかけてきたのは、この工場を取り仕切る工場長。
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