海と蛍

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 連絡が来たのは、ちょうど髪を乾かしている最中だった。夏休みも残りわずかという日で、少し気鬱になりかけの時。  スマホに表示された宮凪空という名前を見ただけで、背筋が凍るような嫌な感じがした。  半乾きのままで駆けつけた頃には、もう宮凪くんは動かなくなっていた。  白い布が被せられた状況に、がくんと足が崩れ落ちる。震えが止まらなくて、とても立てる状態ではなかった。  青い宝石は身体中を蝕んでいて、まるで人形のように見える。触れた肌には、まだ微かに温もりが残っていた。 「この子、春原さんが来るまで、ずっと頑張ってたんだよ。約束したから、死ねねぇって。最後まで……会わせて、あげたかっ……」  母親に寄り添いながら、空さんが泣き崩れる。  優しくて大きな手は、もう握り返してはくれない。  宮凪くん……宮凪くん。こんなに早すぎる別れが来るなんて、思いもしなかった。  ぽたぽたとこぼれ落ちる涙が、ぐっと握りしめている拳を弾いていく。なにか、持っている。そっと手を開かせると、お土産であげたお守りだった。 「……やだ、やだよ。嘘って言って。一緒に、高校行くって、言ったじゃない。水族館も……蛍も……見ようって……」  宮凪くんは、私に嘘をついていた。  蛍病は、世界でたった五百症例ほどしかない細胞の病で、詳しい原因は解明されていない。進行が止まり元気になる人は稀で、発症者のほとんどが成人するまでに命を落としているらしい。  ただ、それが突発的に現れるため、近付くまで分からないケースが多い。急変したら、そのまま逝ってしまう可能性が強いのに、宮凪くんは一度目を開いた。  千羽鶴を見つめながら、何度も私の名前を呼んだ。  蛍、蛍、と最後に笑って旅立っていった。そう空さんが教えてくれた。
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